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地下室 三編(2345文字)





「地下室 三編」




と、ある地下室。

別段、地下室である必要はないのだが、やはり秘密の発明を行うには地下室である方が趣があっていい。

そんな地下室で白衣を着た男が二人。

マッドサイエンスを絵に書いたような男、博士と黒縁眼鏡の冴えない男、助手の鈴木。


「ついに、ついにやったぞ!鈴木くん」


「やりましたね、博士。博士なら必ず作れると思ってました」


「思えば長い道のりであった。時に、君に辛く当たった時もあった。だが、辛酸を舐めてきた日々は今、この時を以て報われたのだよ」


「ええ、博士。博士なら必ずやると信じてました」


博士は満足したように何度も何度も頷く。


「よし。それでは実験をしてみよう。鈴木くん、発明品をここに」


鈴木が仰々しく発明品を取ろうとするが、緊張の余り手が震えて落としそうになる。


「なにをやってるんだ。ほんとに君は愚図だな」


博士は心底呆れたように溜息を吐く。


「それを手にしたら、赤と青のボタンが二種類あるだろう。赤のボタンを そうだな。この机にしよう。この机に向かって赤のボタンを押すのだ」


言われた通りに鈴木は赤のボタンを押すと筒型のそれは赤い光線を照射した。


「ばかもん!」


博士の怒鳴り声が微かにする。

足下を見ると小さくなった博士が何やら喚いている。


「早く戻せ!ほんとに何も出来やしないヤツだ。さっさと青いボタンをおs!!!」




全部、言い終わらない内に小さくなった博士は鈴木に踏み潰されてしまった。


「ずっと殺してやりたいと思ってましたよ、博士。だけど、気の弱い僕には殺すどころか怒鳴られただけで震えあがるだけで。 良い発明をしましたね、博士。蟻程度を殺すぐらいは僕にだって出来るのですよ」





と、ある地下室。

天井に張り巡らされたパイプの上から、どぶ鼠が高笑いする白衣の男二人を見ている、そんな地下室。


「とうとうやったぞ鈴木くん」


「とうとうやりましたね博士」


「キミはオウムじゃないんだから、ちっとは気に利いた台詞が言えんかね? どうせあれだろ? 次の言葉は博士なら必ずやると信じてましたっ! だろ。ははん。」


博士が顎をしゃくる。鈴木は困ったように頭を掻いている。


「まあいい。早速、実験をしてみよう。鈴木くん、そのライトを・・・・・。 いや、いい。自分でやるよ」


博士は一見、何の変哲もない懐中電灯を手にし辺りを見回した。


「よし、あの椅子にしよう。鈴木くん、少し離れておきたまえ」


言われた通り鈴木が離れると、今しがた彼の隣にあった椅子が黄色い光に包まれた。 かと思えば、光に包まれた椅子がゆっくりとその姿を消していくではないか。


「おお!」


鈴木が感嘆の声を上げる。「成功だ」と、博士はニヤリと笑う。


「実は半信半疑だったのですが、凄いものを作りましたね博士。 昔、漫画で見た事がよもや現実に見れるとは思ってもいませんでしたよ。 ものを見えなくさせるなんて本当に出来るものなんですね」


「まあ天才の私だから出来るのであって理解力の乏しいキミには解らんだろうが 正確にコレを表現すると 次元を歪曲させるライトなのだよ。 我々が存在する3次元、上下・左右・前後の三つの独立した方向の広がりを持つ空間を指すのだが、このライトはその空間を無理矢理ねz!!!!」


鈴木は見えない椅子を力任せに博士へと振り上げる。



殴!殴!殴!殴!殴!殴!殴!殴!殴!



「小難しい理屈なんざどうでもいいのですよ博士。ようはアンタが消えてしまえばね。」


鈴木は動かなくなった博士にライトを向ける。

先ほどの椅子と同じように博士の姿は見えなくなった。


「いいものを発明しましたね、博士」


鈴木はそう言うと手にしたライトを床に投げつけた。 バラバラに壊れたライトを踏みつけながら「これで証拠は一切無くなったというわけです」






と、ある地下室。

怪しい博士とその助手の舞台装置。そんな地下室。


「ついに完成したぞ」


「やりましたね博士。博士ならやると僕は信じてました」


「うん。思えば長い道のりだった。その間、鈴木くんにも辛く当たった事もあったが、それも今日という日を迎えるためだったということを忘れないでくれ」


博士と鈴木、手を取り合い、暫し過ぎた日を思い返す。


「おっと、感傷に浸ってる場合じゃないな。早速、実験をしてみないとな」


「ところで博士、これは何をするものなんです?」


「キミはそんなことも知らずに助手をやってたのかね。メガバカだな。まあいい。 バカにでも解るように説明してやると、これは一見普通の本に見えるが実は未来が解る本なのだ。この本にはナノマシンが組みこんであって、ありとあらゆるデータを解析し予測するのだ。その確率は実に97%。しかも10年先まで見通せるのだ。」


「オインゴボインゴ、真っ青ですね」


「訳の解らないものと比較するのは止めたまえ。そうだな、先ずキングオブ白痴こと鈴木くんの未来を見てみよう。このペンでキミの個人情報を書く。組み込まれたナノマシンが情報を検索し適合の表示が出れば未来予測が可能となる。出た。手始めに明日のキミを予測してみよう。明日の日付を入力してと。変だな? 地下室を出るらしいぞ。一週間後ならどうだ?」




ピピーと音がなってエラーが表示される。




「全く何を作ってるのかと期待してみれば、くだらない。こんなものに、二年も費やしていたとは信じられない。もっと有意義なものを作っているとばかり思っていた。これだから浮き世離れした科学者は嫌なんだ」


鈴木が足下に転がって、動かない博士に向かって言う。鈴木が持つバットからは血が滴り落ちていた。

明日、地下を出るか。その通りだろうと思う。もう食料は尽きた。突如始まった戦争から二年。地下シェルターで研究を続けて、もう二年が経った。地上がどうなっているか解らないが、緩慢な死を迎えるよりは良いだろう。例えその先の未来が予測がついていても。

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