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──妾ガ膝ヲ折ッタ時ハ、ドウカ王ノ御手デ引導ヲ渡シテ頂キタク。
曰くケジメをつけるため、延いては在りし日の雪辱を晴らすため、リシュリウ・ラベルに牙を立てると吼えた際、フォーマルハウトが併せて請うた願い。
俺からの介錯なぞに鐚一文でも価値があるかは兎も角、気持ち自体は分かる。折角の最期だ、死に方くらい選びたいもんな。
月彦さんもラストは自爆で飾りたい。方法としては『破界』の際に吸い上げるエネルギーを敢えて暴走させれば、人生を締め括るに相応しい派手な花火となるだろう。
ああ、その時が楽しみだ。
…………。
挽肉を固めたも同然の身体で強引にダッシュかけた所為か、小腹が空いた。
「胸周りの風通しが良くなった程度じゃ、死なねぇよな」
嘗て一戦交えた時は、首だけになっても暫く生きてたし。
「お前の血も肉も骨も、何もかも差し出す気はあるか?」
〈……妾ハ……妃。王ノ、玩具〉
問い掛けに対し、口の端から血を伝わせながら微笑むフォーマルハウト。
掠れた、甘ったるい声音で、囁きが返る。
〈喜ンデ、捧ゲマス──〉
辛うじて彼女の肌を覆っていた雪鎧が、どろりと溶け去った。
首から下を喰らい尽くし、残った頭を手中で弄び、片合掌。
「御馳走様でした、と」
やはり竜は旨い。味もさることながら、滋養溢れると言うか。特に内蔵。
流石に好んでヒトガタを貪る嗜好は待ち合わせちゃいないが、こう美味とあらば、つい手が伸びてしまうのも無理からぬ話。
しまったな。これなら、ひと口くらいドラゴンの肉も食っておくべきだったか。
痛恨のミス。食事関連の後悔は地味に尾を引くぞ。
……まあ、いいか。次の機会で。
次なんてものがあれば、だが。
「アディオス、絶凍竜妃フォーマルハウト。お互い覚えていたら、またいつか」
〈────〉
聞こえちゃいねぇ。蕩け顔で気絶してやがる。
なんともはや。直接の指摘が憚られるレベルにはアレな女だ。
歯ぁ立てる度、嬌声上げてたし。
「締まらんなァ……」
首を放り投げ、フランベルジュで賽の目状に斬り刻む。
水に落ちるより先、肉片も骨片も、余さず塵と消えた。
さて。
「悪かったな。お待たせしちまって」
「だんじょの、おうせを、じゃまだて、するほど、ぶすいでは、ありませんよ」
波打つ剣身を血振りし、肩へ担ぐ。
「つーかテメェ、さっきブチ抜いてやった穴はどこ行った?」
穿式の投擲で与えた胸部欠損。そいつが綺麗に治ってる。
それどころか、着込んだスーツにすら血飛沫ひとつ無し。
着替えたのかと一瞬考えるも、今ひとつ釈然としない。
不可解。
そして更に不可解なのは──全盛のフォーマルハウトを相手取ったにも拘らず、あまりに身綺麗が過ぎるってところだ。
「ふふっ」
そんな俺の疑念を見透かしたのか、リシュリウ・ラベルは仄笑う。
「こむずかしく、かんがえる、ひつようなんて、ありませんよ」
「あァ?」
おもむろに突き出された指先。
「──あなたにも。おなじことが、できるでしょう?」
乾いたフィンガースナップの音色が、小気味良く鳴り渡った。
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