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 那須殺生石異界で勃発したカタストロフの爪痕は、沈静化を遂げた今も尚、根深い。

 その煽りを受け、我等シキ組の雇い主ことナントカ博士の娘御であるところのシンギュラリティ・ガールズも一時活動自粛中。


 当然、予定されてたライブも中止。

 熾烈な争いの果て、チケットを勝ち取った全国のファン一同、挙って血を吐いたとか。


「ねーねールナくーん」


 そして彼女達は限りなく人間に近いが、どこまで行ってもアンドロイド。

 歌も踊りも、データさえ打ち込めば反復練習を積み重ねる必要性など皆無。なんなら演算機能のリソースを注ぐことで、半自動的にアップデートされ続ける仕組みだとか。


「ルーナーくーん。聞いてるー?」

「聞いてる。なんだ6TH」


 即ち。


「暇だから遊ぼーぜ! うぇーい!」


 五姉妹全員、手持ち無沙汰で仕方ないらしい。






 南鳥羽カンパニー本社ビル内には、社員の勤労意欲向上を目的とした娯楽施設や飲食店などのテナントが多数入っている。

 例えば十四階のフルーツパーラー。リゼが贔屓の店で、出勤日は必ず足を運ぶ。


「毎度毎度、感心するぜ。福利厚生の充実を謳うだけはある」


 半世紀先の技術と経済情報を抱えるがゆえの、湯水が如し財力。


 金があるってのは、つまり色々出来るってことだ。

 勿論、使い方は持ち主次第だが、博士の場合だと、こういう形に寄るらしい。

 ホワイト精神の塊かよ。なればこそフェリパ女史に見出されたのかも知れんけど。






 所変わって、二十九階のレクリエーションルーム。


「ルナくん、ビリヤードやろ! アタシ得意なんだー!」


 手慣れた所作でキューを繰りつつ、テーブルに腰を預ける6TH。

 そりゃアンドロイドなんだから、力加減や角度計算は朝飯前だろうよ。


 つーか言われるまま着いて来たものの、お前達の遊び相手は業務内容に入ってないぞ。


「……ま、いいか。どうせ俺も暇だし」


 リゼ、ヒルダ、五十鈴の三人は、u-a曰くの分岐点とやらに備え、肝要な一切を整えるべく各々動き回ってる。

 その皺寄せと言うか、消去法的な役割分担により、あいつ等の分まで出勤日を受け持った俺は、ここのところ本社に泊まり掛け状態。


 しかも、やったことなど精々が懐に武器を忍ばせた侵入者を数人とっ捕まえた程度。

 せめて爆破くらいしようぜ。春の風物詩だろ、爆破。


「ブレイクショットはルナくんに譲ったげる! 負けた方は罰ゲームね!」

「あいよ」


 ビリヤードなぞ全くの未経験ゆえ、スマホで軽くルールを調べた後、キューを構える。


 ひと突きで的球全部、ポケットにブチ込んだ。

 6THには一日、お嬢様キャラで過ごさせた。

 他のシンギュラ達が大真面目に故障を疑って、かなり笑えた。





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