708・Rize






 繁華街周辺の掃討を終え、県境に設けられたシェルターまで下がり、小休止。

 テーブルに並べた魔石などの収穫物を、集まった子供達が興味深げに眺めている。


「ふふ。僕の方が多く倒した」

「ドロップ品は俺の方が多い」


 対面に腰掛けるヒルデガルドと睨み合い、火花散らす月彦。

 そりゃ『ウルドの愛人』で結果を差し替えられるアンタ相手じゃ、分が悪いわよ。


「ところで五十鈴はどうした。全員ここに集まる段取りだろ」

「なんか人手が足りないとかで、沈黙部隊の方に駆り出されたよ」


 もう辞めたんだし、断っても良かったでしょうに。

 私には真似出来ない勤勉さ。社会性のある人間って、やっぱり違うわね。






「ちょ、ま、おま、いきなり何しやがる」

「こっちの台詞なのよ」


 アームロックで月彦の動きを封じる。

 理由は、あろうことかブルーベリーパイをヒルデガルドに分けようとしたから。


「待てリゼ、ひと切れ、ひと切れだ。今回はヒルダも頑張ったし、労いは必要だろ?」

「なら酒とタバコでも渡しとけばいいでしょ。人が楽しみに取っておいた品を差し出すとか何考えてるの、バカなの、バカだったわね」

「いや買って来たの俺……」


 問答無用。魂撫で回しの刑に処します。

 逃げられるものなら逃げてみなさい。無理やり振り解いたら怪我するわよ、私が。


「──藤堂さん! 榊原さん!」


 と。不意に私達を呼ぶ、どこかで聞き覚えのある声。

 今ちょっと取り込み中なんですけど。


「どうも。御無沙汰してます」

「あら、甘木くん」


 誰かと思えば。


「妙な所で会うわね。地元、こっちだったかしら?」

「え、あ、いえ。宇都宮でオープンキャンパスがあって……」


 運悪くカタストロフに巻き込まれたワケ。それはそれは、とんだ災難。

 まあ見た感じ、目立った怪我もしてないし、早くに避難出来たんでしょうけど。


「何にせよ、御愁傷様」

「はは……無事に済んだだけ儲け物ですよ」


 周りを見渡せば、重軽傷者だらけの陰惨な光景。

 怪物犇く街中を五体満足で逃げられたなら、確かに悪運強いと言える。

 日頃の行いかしら。


「ところで二人とも、なんで関節技を──」


 言葉の途中、甘木くんの表情が固まる。

 位置取り的に私達を挟んだ先で紙巻きを銜えたヒルデガルドと、視線が重なっていた。


「…………」

「…………」


 暫し続く硬直と沈黙。

 やがて甘木くんが、くるりと踵を返す。


「す、すいませっ、俺、用事を思い出しましたァッ!」


 脱兎。


「ふっ……あははははっ、逃げることないじゃないか照れ屋さん! まさか再び会えるなんてね、今度こそミュンヘンに連れ帰ってあげるよ!」


 そして、それを追うヒルデガルド。

 なんなの一体。

 て言うか。


「いいの月彦? あのままだと彼、なにされるか分かんないわよ?」


 パイを横取りされる心配も無くなったし、腕の戒めを解く。

 すると月彦は、何やら怪訝な顔で、私に向き直った。


「よぉ、リゼ」

「なに」






「今の──?」





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