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「月ちゃん。今日はサヨナラを言いに来たぜ」


 行きつけのダーツバーでラーメン食ってたら、バックパックを背負った吉田が現れた。

 どうしたアホ。卒業式以来だなアホ。


「アホ」

「いきなりの罵倒! それでこそ月ちゃん!」


 失礼な奴だ。

 取り敢えず蹴飛ばしとこう。


「豪血」

「あみゃぁぁぁぁぁぁぁぁ──」


 ドップラー効果を残し、空の彼方へ消えて行くアホ。

 あの軌道だと横浜あたりに落ちるな。


「マスター替え玉」

「月彦くん、もう諦めてるけどウチは食堂じゃないんだよ」


 にしては美味いし、頼めばなんでも出て来るよな。






「死ぬかと思ったナリ」


 いい感じの棒を杖代わりに戻って来た吉田。

 早かったじゃないか。


「あ、これお土産ね」


 手渡されたのは豚角煮まん。

 中華街まで飛んだらしい。


 …………。


「今朝ヒルダの奴が長崎チャンポンを食いたいとか言ってたな」

「俺ちゃんウーバーじゃないナリよ!? つーか二度目は勘弁してつかぁさい!」


 冗談だ。半分。






 で。


「別れがなんだって?」


 隣席で石狩鍋定食を食べる吉田に問う。

 無茶振りへの対応力が高過ぎるぜ、マスター。


「俺ちゃん、旅に出ることにしたちゃん」

「ちゃんちゃん」

「始まる前に終わらせないで!?」


 旅ねぇ。

 大学在籍中も西へ東へ行ってた気がするけどな、コイツ。


「遠くへ行くのです。もう帰って来られるか分からないくらい遠くへ」

「そうか。達者でな」

「軽い! もっと惜しんで! 俺ちゃん達マブじゃん!?」


 生憎ドライなんだ。

 第一。


「消えて無くなるワケでもねぇ。互いに生きてりゃ、会う機会くらいあんだろ」


 その時まで俺が生きてるか、延いてかは知らんけど。

 ま、コイツみたいな大アホ、そうそう忘れんか。


「ただ、ヒルダは寂しがるかもな」


 アイツ友達少ないし。


「号泣されたぽよ」


 だろうね。






 ご馳走様でした、と吉田が手を合わせる。


 次いでバックパックを背負い直し、席を立つ。

 もう出発するつもりらしい。


「そいじゃ月ちゃん、お元気で!」

「ああ」


 溌剌な声の後、一歩ずつ離れる足音。


 扉の前に届いた頃合、振り返る。


「吉田」

「ほえ?」


 一拍、間を空けた。


「またな」

「……おう!」


 無駄に元気なガッツポーズ。

 全く以て、あらゆる面で煩い野郎だ。






「お待たせ月彦」


 吉田と概ね入れ替わりで、リゼが顔を出す。

 奴の座ってた席とは逆隣に腰掛け、俺の横顔を見遣った。


「何かあったの?」

「あァ? いや、特には」


 強いて言うなら、改めて考えたらアイツが人生でだったな、と思っただけだ。


 ──友達なんて、呼べる奴は。






「ねえ、月彦くん」


 どしたんマスター。


「さっきの彼、お金払わず帰っちゃったんだけど……」


 あの野郎。次会ったら覚えてろよ。






 ちなみに翌日。


「うぇーい月ちゃーん! 忘れ物したから一旦、帰って来──」

「くたばりやがれキック」


 太平洋のド真ん中まで飛ばしてやった。





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