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「──異能とは、この世界の外に起源を置いたチカラ」


 背丈相応の小さな指先が、転生刀の鍔を弾く。


「地球と、地球に混ざり込んだ異物ダンジョン。それ以外にも大小無数の世界が、人間の脳味噌じゃ認知出来ないほど大きな括りの中には鏤められてる」


 ピンク色の長い髪を、布で縛り上げる。


六趣會わたしたちは嘗て、そんな異世界のひとつで旅をした」


 帯に巻き付けた腰紐を解き、襷掛けとする。


は、その時に得たもの」


 厚底草履を脱ぎ散らかし、素足で石畳に立つ。


「……正直こんなもの、生涯使う気は無かったけど」


 深い溜息の後。奥歯の軋む音が、微かに耳朶を掻く。


「認めるわ。今のままじゃ、もう、わたしは貴方に勝てない」


 薄ら甲高く、鯉口が切られた。


「敗けて死ぬくらいなら、流儀を捨てた方が百倍マシよ」

「……相容れねぇな」


 柄に手が添わる。

 濁った赤眼が、俺を射抜く。


「ねぇ。そっちも、まだ何かチカラを隠してるんでしょ?」


 出し抜けな言及。

 呪縛式のこと……では、なさそうだ。


「ジャッカルが言ってたわ。貴方は、理の根底に触れることが出来る筈だって」

「くくっ」


 笑える。理の根底ときたか。

 たかが過去の改変をつかまえて、随分と大袈裟な口回しだ。


 で。


「イエスと答えたら、どうするんだ?」

「勿体ぶらず遣いなさい。死ぬわよ」


 …………。

 馬鹿を仰りあそばされる。


「嫌だね」

「何故」


 つまらねぇからだよ。


 もし『ウルドの愛人』を戦術に混ぜ込めば、俺の攻防全てが運否天賦をも含めた最善手に置き換わっちまう。

 そんな代物を真剣勝負に持ち出すとか、考えただけで萎えるだろうが。


「俺は生きてりゃ満足な、頭の悪い獣とは違う」


 楽しんでこその人生。

 悦楽こそ、すべて。


 たかが己の命となんぞ、秤に掛けるにも値しない。


「流儀を捨てるくらいなら、敗けて死んだ方が億倍マシだ」

「……相容れないわね」


 ざらついた舌打ち。


 同時。毒気のような靄が、ハガネの輪郭を滲ませる。


「いいわ。もう頼まない」


 完全索敵領域内に全容を置いて尚、些細の掴めぬ異彩。


 しかし、ひとつだけ分かる。


 吐き気を伴う悪寒が、脳髄を駆け巡っている。

 見聞覚知の悉くが、最大級の警鐘を脳髄に伝えて来る。


 ──あれはヤバ過ぎる、と。


「無理矢理にでも遣わせるだけの話」

「…………ハハッハァ」


 その意気や良し。

 やれるもんなら、やってみな。


異能解放ゴスペル・パージ


 膨れ上がり、渦巻き、空間を充たす靄。

 世界そのものを塗り潰すかの如く、広がって行く。


 ……ああ。この感覚には覚えがある。

 そうだ。カルメン女史が冷気を操っていた時に、少し似てる。


「『エンドギフト』」


 こいつは少し、まずいな。






 呑み込まれる。





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