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如何に伸縮自在の奇剣であれ、先端を押さえてしまえば無力。
あとは軽く捻れば、飴細工同然に砕け散る。
「お」
なのだが、手首の返しで応じられ、罅ひとつ入りゃしねぇ。
つくづく術理と技巧に長けた業師だ。小賢しい。
勿体ぶらず聞かせてくれよ。綺麗な音を。
「チッ」
このまま続けたところで、堂々巡りの千日手か。
縦しんば折ったとしても伸縮機能は健在。一杯食わせてやる以上の旨味は無い。
やめた。絵面地味だし、飽きたし。
あと、ついでに質問。
「なにゆえ野太刀サイズがデフォなんだ?」
いっそナイフくらいにした方が、百倍は取り回しやすいだろ。
「気構え、よ」
成程、納得。
そも不便を感じてる素振りも窺えんし、無粋だったか。
「しぃっ」
厚底草履の摺り足にて再び間合いを詰め、しかし最後の半歩だけ刀身の伸長で補い、振るわれた横薙ぎ。
姿勢、体軸、重心、力み。
僅かな所作に至るまでが誘いを帯びた、絶妙な崩し。
仮に頭で分かってても脊髄反射が働いてしまうタイプの、意識に訴えかけたフェイント。
「『穿式・燕貝』『針尾』」
尤も、アラクネの粘糸で直接五体を操る俺には、およそ無意味な仕掛け。
慣れたらこっちの方がラクだし、レスポンスも早いし、精微なんだよな。
普通に動く三倍ほど痛むだけで、特にデメリットも無いし。
強いて難を挙げるなら、キリキリうるさいとリゼに文句垂れられるくらいか。
「秒間三万回転の螺旋細剣だ。まともに受ければ骨と肉の区別もつかなくなるぜ」
嘘。完璧なノリ発言。針尾の回転数とか知らん。
兎にも角にも、打ち合う。
「しいぃ」
紅を塗った唇の隙間から零れる、独特な呼吸音。
触れただけでビル一棟が消し飛ぶ剣身を、柔らかく去なされる。
六百四十七回、そんな応酬が続いた。
「あー、駄目だ耐えらんねぇ」
足元の地盤を深く円錐状に抉り、離脱。
変化に乏しいシチュエーション、マジ無理だわ俺。
「さァて」
ひとまず様子見を選んだのか、円錐の淵まで退いて佇み、自然体に構えるハガネ。
であれば此方は、どう出たものかな。
──『水月』での遠距離攻撃?
──『落月』での広範囲攻撃?
今ひとつパッとしねぇ。奴相手じゃ有効打にならんと分かり切ってるし。
かと言って向こうが本気を出すより先に縛式や呪縛式を切るのも、なんか癪だ。
「……ん」
待てよ。
ほんの一瞬、単体で『深度・参』が扱える現状なら、アレこそ打って付けじゃないか。
「よし決めた」
まずは針尾解除。
次いで。樹鉄刀の姿を変える。
「『鞘式・優曇華』」
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