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翅脈を想起させる透かし模様の浮かぶ刀身。
極限まで斬れ味を突き詰めた単分子の薄刃が、喉笛間際へ押し迫る。
……?
なんだよオイ。
「鉄血──『深度・弐』──」
やにわに鼻白む。
赤青を切り替え、太刀筋に人差し指を添う。
そのまま、斬撃を堰き止めた。
「!」
「お前な。ちゃんとやれよ」
刀ごと矮躯を弾く。
放物線を描き、十歩分ほど払い飛ばす。
「次すっとろい真似しやがったら、舌引き抜くぞ」
「…………驚いた」
やけに長い滞空時間を経ての着地。
まるで物理法則から脱却しているかのような、事実そうなのだろう奇怪な動き。
「前、会った時なら……確実に殺せる程度で、斬り込んだ、のに」
手元を眇め、淡々と述べるハガネ。
一体いつの話だ、そりゃ。カンブリア紀か。
「…………成長期?」
「あァ? まあ、まだ背は少し伸びてるが」
どうせなら区切り良く二メートルきっかり欲しい。
現時点でもリゼに時折、顔が遠いと意味不明な文句を言われるけど。
「ワンモア」
逆手で差し招き、第二撃を待つ。
それが癪に障ったのか、ハガネの眉間に皺が寄る。
「…………じゃあ……これなら、満足?」
緩慢と突き出された腕。
長刀の切っ尖が、俺の心臓部を面する。
「ほォ」
転生刀・妃陽丸。
半光速での伸縮能力を擁す奇剣にして、十三の牙に位列されし絶剣。
刀の本懐たる切断以外の全てを擲った埒外な脆さゆえ、ただ振るうだけでも使い手に異次元の技量を求める、ある意味での妖刀。
なんだったら自己修復機能も付けていないと、他ならぬ
即ち、あれを武器として成立させてる時点で、掛け値無しの人外。
そもそもあんなもん、一本どうやって造ったんだ。
樹鉄刀といい、その技術力こそ異次元だわ。
「『
脳髄の奥底から警鐘が鳴り渡る。
五感は未だ何の察知も示さないが、来る、と本能的に悟った。
「ぅるる」
落雷すら悠々と置き去る、生物の見聞覚知など遥か超越した速度。
此方が『深度・弐』で『豪血』を用いて漸く、僅かな違和感を拾える領域。
「豪血──」
退くも対すも、まず捉えねば話にならん。
勘に任せるのも一興だが、今回は少しスマートに立ち回りたい気分。
「──『深度・参』──」
故。十万分の一秒だけ、参まで深度を引き上げる。
刹那にさえ満たざる間のみとは言え『豪血』単体でコレが出来るようになったのは、確かな進歩と呼べるだろう。
ちなみに限界を見誤ると、四肢五臓六腑が爆ぜる。
一回、興味本位で線を越えたら、最高に笑えた。
でもリゼには死ぬほど怒られた。解せぬ。
まあ、ともあれ──正面から、刃先を掴み取ってやった。
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