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「豪血──『深度・弐』──」


 大小新古様々な鳥居が乱立する、那須殺生石異界深層部。

 不可思議な趣き漂う空間を、音速の数百倍で駆け抜ける。


「ン」


 接敵。プリズム質の甲羅を背負った、馬鹿でかい亀。

 確かコイツは、爆発反応装甲の要領で物理攻撃を跳ね返す防御能力を持ってた筈。腕ごと吹き飛ばされた記憶が薄ら残ってる。


「『断式・仏鉢』」


 敢えて、同じ轍を踏んでみることにした。


「バチ砕けろ」


 縦横どちらも俺よりデカい大剣形態。力任せに振り下ろす。

 光り輝く堅牢強固な甲羅は、切っ尖を受け止め、反射──させることなく、そのまま吹き飛んだ。


「チッ」


 どうやら向こうさんの耐久限界を剣戟が上回った模様。

 タフさ自慢が正面から崩されてちゃ世話ない。つまんね。


「次」


 深く踏み込み、更に加速。


 リシュリウ・ラベルとの衝突で『深度・参』を使い、その過負荷を越えて飛躍的な超回復を遂げた身体能力。

 速度自体もさることながら、以前は『鉄血』と併用しなければ自壊を免れなかった『深度・弐』の膂力が、今や完全な掌握下。

 技術で反動を受け流せる最低限のラインに、漸く肉体強度が届いたワケだ。


「見付けた」


 音の千倍に迫るトップスピードで地と宙を蹴り、クリーチャーを捕捉。

 今度のは初見。複数種の動物の特徴が混ぜ合わさった、キメラに近い印象の怪物。


「『番式・龍顎』『刃軋』」


 大剣を二刀へ別ち、加えて剣身に並ぶ鋸刃を高速振動。

 耳障りな高周波が鼓膜を掻くより先、ざっと四千とんで三百の斬撃を八方から見舞う。


 名も知らぬクリーチャーは抵抗の意思表示すら示さないまま、均一な立方体の肉片の山と化した。


「鈍間が」


 軽く五体を検め、女隷の健在を確認。

 壊れては俺の血を吸って直り、また壊れ……その繰り返しを重ねた成果が、とうとう実り始めた模様。


「『双血』の適用まで、あと少しってトコか」


 番式を逆手に持ち替えた。


「『縛式・纏刀赫夜』」


 樹鉄が枝と根の如く伸び、絡み、我が身を鎧う。


「豪血──鉄血──『深度・参』──」


 時が止まる。或いは加速する。或いは遡る。

 遥か遠方の景色が唐突に眼前となり、手を伸ばせば届く位置にあった筈の小石が、独りでに離れて行く。


 あまりに鋭く研ぎ上がった識覚と身体能力が崩壊させた、時間と空間の整合性。

 俺の体感という意味合いで、およそ一万分の一秒が過ぎ去る。


「難度十ダンジョン最前線、八十番台階層」


 単騎で容易く国を滅ぼせる出力と、それを十全に使い熟せる性能とを兼ね備えた、特級のクリーチャー達。


「もうにもなりゃしねぇ」


 光より速く、一体残らず屠り尽くした。

 弱いもの虐めみたいで、少し気が咎める。





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