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「チッ」
躱された。顔の上半分を刎ねるつもりだったんだが。
──けれど。避けたな?
「やはり、か」
薄剣の編む軌跡を見定め、得心した。
ああ。ひと太刀も当たらないワケだ、と。
何せ──俺が勝手に外してたんだ。
そりゃ当たる方が、おかしい。
「妙な小細工しやがって」
攻撃の意思に反した、無意識の寸止め。
スキルか未知の技術か、或いはもっと別の……理屈こそ分からんが、厄介極まる現象。
しかし同時に、光明も得た。
応酬を振り返り、白い女に此方の攻め手が全て届かなかったかと言えば、そうではない。
少なくとも二度。リゼの斬撃と、首を投げての噛み付きは直接捌いていた。
どちらも先の拳打や曲式と比較し、明らかに劣る攻め手だったにも拘らず。
「その不自然が糸の端」
律儀に十まで暴く必要は無い。
一だけ分かれば、事足りる。
「…………い、たい」
ぱさりと落ちる白布。
諸共に額を浅く切った感触があった。
それ故か、女は顔を押さえたまま俯いてる。
馬鹿め。戦闘中に呆けやがって。
「女だから手心を貰えるなんて幻想は捨てとけよ。俺は男女平等主義でね」
アラクネの糸を張り、五体を繰る。
「テメーの軽薄な手品も、もう効かねェ」
未だ全容こそ不明瞭なれど、差し当たり、奴に俺の攻撃が届かない原理は掴んだ。
恐らく、末梢神経の誤作動。
思考を介さない脊髄反射に何らかの方法で訴えかけ、当人でも気付けぬほど僅かに動きを狂わせているのだろう。
変幻自在な曲式の太刀筋に微妙な強張りを覚え、そう確信するに至った。
どうやら発動条件があるらしく、リゼは影響下に置かれていないようだが、症例二件じゃ考察も儘ならん。
依って、力技の対策を打たせて貰った。
「こうすりゃ、誤作動もクソもあるまい」
全身の神経を切断し、アラクネの粘糸でダイレクトに肉体操作。
念を入れて、俺との繋がりが強過ぎる樹鉄刀も手放した。
結果は、今し方の一撃で証明済み。
あとは──回避不可能な大技で、磨り潰せばいい。
「まさか、もう一度コレを使う羽目になるとは」
臨月呪母の残穢を取り込み、右腕を裂く。
俺の血、生体エネルギーと混ざり合い増幅した呪詛を啜り込んだ大鎌が脈打ち、ひと回り肥大化する。
「ちょ、月彦、アンタ何──」
「亜空間に隠れてろ。悪いが、上手く調整出来ん」
不規則なリズムの鼓動。
本家とは似ても似つかぬ、強引に熱量を押し込んだだけの無理矢理な模倣。
──横薙ぎ一閃、切っ尖を振るう。
「『盗演児戯・呪胎告知』」
甲高く響き渡る、悲鳴じみた風切り音。
空間ごと削り落とすかの如く太刀筋の先を埋め尽くす、不純物塗れの呪詛。
「猿真似の技で序幕終わりとは、締まらねぇな」
赤と黒の混ざり合った奔流。
陽射しを雲が覆うかの如く、船体の凡そ半分を呑み、影も残さず、食い千切った。
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