568






「そういえば。じこしょうかいも、まだ、でしたね」


 たおやかな一礼。

 顔を握り潰してやろうと踏み込むも、僅かに届かず空を掴む五爪。


 ──間合いを計り違えた?


 否。完全索敵領域の内側だぞ。そんなワケが無い。

 しかし、であれば、何故。


「わたしは、りしゅりう。りしゅりう・らべる」


 半秒にて千と八十の拳打を放つ。

 一発も当たらない。掠りもしない。


 この女は、避ける素振りすら見せていないにも拘らず、だ。


「くろき、せいぼ」

「『曲式・火皮』」


 赫夜を解き、十形態の中で最も長尺な薄剣へと切り替える。

 赤青の併用こそ出来なくなるも、自在な軌跡を描けるコイツが見極めには最適。


「ぶらっくまりあ、の、おう」


 四方、八方、十六方、三十二方、六十四方。

 十メートルほどの剣身に赤光を絡めた強化状態で、牢獄に等しい太刀筋を編む。


 ──やはり、当たらない。


「成程」


 けれど──理解した。



 だったら、少し手を変えねばなるまい。


「リゼ。臨月呪母を貸してくれ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る