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 三十三秒。

 リゼと同系統の異能を持たなければ侵入も脱出も不可能な断絶領域が、弾けて消える。


「ふふ」


 領域内にて抗うでもなく、ただ佇んでいた白い女。

 戒めを解かれた後、白鞘に収めた黒剣で足元をコツコツと叩き、穏やかに笑う。


「あんがい、やるもの、ですね」


 分厚い白布で覆った眼差しが、ついとリゼに流れる。

 立ち居振る舞いから察するに、目は視えちゃいない筈だが。


 …………。

 いいか。なんでも。どうでも。


「いちげきで、しとめそこなう、なんて、いつぶり──」

「うるせぇよ」


 ひどくスローテンポな口舌を断つ。

 声すら癪に触る。奴の何もかもが神経を掻き毟る。


 ──だと言うのに、思考は素晴らしくクリア。

 どうやら俺は極度に激昂すると、却って冷めるタイプらしい。

 初めて知った。


「あら。あら、あら、あら、あら」


 上半身が真横を向くほど、白い女は深々と首を傾げた。


「もしかして。おこって、いますか?」

「実に下らねェ質問だな」


 判断自体は極めて合理的。

 俺とリゼの両天秤なら、より厄介なチカラ持つのは間違い無くリゼ。

 仮に俺が逆の立場で、理に適った行動を取りたい気分だったら、きっと同じことをする。


 けれども、だ。


「逆鱗を踏み付けたんだよ、テメェは」


 問答は終い。長々と歓談に応じる気は無い。

 四つ足の姿勢を取る。十爪を地に突き立てる。


「『縛式・纏刀赫夜』」


 樹鉄を崩し、我が身に鎧った。


「豪血──鉄血──『深度・弐』──」


 赤光と青光を、張り巡らせる。


「ぅるるるる」


 様子見は割愛。

 初めから、ギアを上げて行く。


「その喉、噛み千切ってやる」


 ──さあ。しめやかに殺すとしよう。





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