504・Unknown






 中で何かが暴れる棺を背負った、日本人の平均身長を頭ひとつ分は凌ぐ灰髪の偉丈夫。


 己が首筋へ添えた右手には、銀色の腕輪型端末。

 探索者シーカー。それも世界で百人足らずの二桁ダブルランカー。


 知ってる。こいつは。


「ッ――殺せ!」


 考えるより先、部下達に命ずる。

 姿を見られたという判断ゆえか、或いは単純に怖れからか。


 サイレンサー越しの銃声が七度、三方にて鳴り渡る。

 玩具のような代物しか持ち込めなかったが、人一人を仕留めるには十分。


 十分な、筈。


「……最低限の対ダンジョン加工……クズ魔石を混ぜ込んだだけの鉛玉か。スキル封じの魔弾くらい持って来いよ、つまんね」


 防ぐどころか身構える素振りさえ皆無。

 棒立ちのまま、体表で受け止められた。


「レールガンや対物ライフルなら兎も角、そこらの中型拳銃じゃ皮膚も貫けねーぞ」


 潰れ、拉げ、原形を失い、ぽろぽろと落ちる幾つもの弾頭。


 目に見えるダメージは、命中部に残った僅かな痣のみ。

 それすら、奴が軽く撫でる頃には消えていた。


 スキルを発動させたようには見えなかった。

 外骨格でも形成してるのか、この男。


「ば、化け物っ……」

「あァ?」


 耳元を風切り音が掠める。


 小石か何か、指先で弾いたのだろう。

 奴の気分を害した部下が額を割られ、昏倒した。


「失敬な。会って三十秒の奴に化け物呼ばわりされるたぁ初めての経験……でもないか。寧ろ割と頻度の高いイベントだったわ」


 悲しいぜ、と嘯き、どうでも良さそうに天を仰ぐ――『魔人』藤堂月彦。


「残り四人か。あーあ、ツマミにもなりゃしねぇ」


 億劫げな溜息混じり、奴が棺を下ろす。

 ほぼ同時。鎖された蓋が、内側から蹴破られた。


「お前にやるよヒルダ。鬱憤晴らしにゃ丁度良いだろ?」

「まず僕に謝って」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る