469・閑話19






 某県某市。

 日本最悪の無法地帯と称された地に於いて『越後の龍王』が残した爪痕を、ここに一部抜粋する。






 ――証言者その一、隻眼の男。


「ひいいぃぃぃぃ!? お、おお、俺の前で、その名を口にするんじゃねぇ!! 何かの間違いで物陰から出て来たらどうする!?」






 ――証言者その二、前歯が全部無い男。


「顔面パンチ一発で、三日間意識が戻らなかった」






 ――証言者その三、十三代目総長。


「こっちは仲間を残らずかき集めたんだ」

「兎に角、大勢居た。勿論全員、何かしら武器を持ってた」

「数えきれないほど殴り付けた。金属バットや単管でだぜ?」

「骨の折れる音を何度も聞いた。カチ割った頭からは血が溢れてた。そこら中、赤と青でグチャグチャになった」

「なのに奴は倒れるどころか怯みもせず、砕けた筈の腕で仲間の胸倉を掴んで、アスファルトに叩き付けるんだ」

「しかも次の日には、包帯まみれで別の連中を叩きのめしてやがった」

「バケモンだよ。もう二度と関わりたくねぇ」






 ――証言者その四、子分を連れた男。


「ふざけんなよぉぉぉぉ、なんでチャカが当たらねぇんだよぉぉぉぉ」

「いえアニキ! あん時ゃ三発当たってました!」

「じゃあ倒れろよぉぉぉぉ、なんで平然と殴りかかって来やがんだよぉぉぉぉ」

「急所狙いは全部外されてましたんで!」

「そういう問題じゃねぇんだよぉぉぉぉ」






 ――証言者その五、元クラスメイトの女子大生。


「そんなコワい人でもなかったヨ?」

「ただ、連れてるコは月一で変わってたカナ?」

「だいたい勝手に擦り寄って、勝手に離れただけっぽいケド」

「ミンナ、あんまり関心持って貰えなかったミタイ」






 ――証言者その六、元近所の住人。


「バス停の案内板あるじゃないですか。土台がコンクリートのやつ」

「自分目掛けて突っ込んで来たバイクを、アレで横殴りに吹っ飛ばしたんですよ」

「敢えて避けずに迎え撃つあたり、どうかしちゃってますよね」






 ――証言者その七、某売れっ子漫画家。


「僕の漫画、世間的にはフィクションで通してるんスけど、九分九厘実話なんスよね」

「弄ってるのは主人公の顔と名前くらいス。月彦クン、個人情報漏洩をエイリアンか何かだと思ってるフシあるんで」

「え? ええ。動物園に輸送中の虎が逃げ出した後、運悪く彼と出くわしてボコられたのも、実際の話っスよ」






 ――証言者その八、龍王の父母。


 ※さる金融からの借金滞納につき、現在地下労働施設に収容中のため取材不可。

 正確な所在地は不明。約三十年後に完済及び解放予定。





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