413・Hildegard






「シンゲン、少し速い」

「む? おお、すまんすまん」


 十秒に一度のアラームに合わせたペースで私の真下を歩くジャッカルが、その右隣に位置取るシンゲンの裾を引き、歩調を抑えさせた。


「気を付けろ。ここが鎖されれば、如何に君でも脱出は至難だ」


 ……不可能、とまでは言わないあたり、鼻っ柱の強さと、仲間に対する信頼が窺える。

 ちょっとだけ、羨ましく思う。


「そりゃあ、君の滅茶苦茶な膂力なら、ここを空間諸共に壊す程度は容易いだろう」


 え。ちょ、ま、タンマ。

 出来るの? 出来ちゃうの? 力任せのゴリ押しで、空間破壊。


「しかしオレ達には、元居た位相を探る術も、そこへと舞い戻る手段も無い」


 まあ、ね。そう、ね。だよ、ね。

 だからこそ、リゼは特別なんだし。


「迂闊な真似は慎めよ。オレを怒らせた元夫二人が如何な末路を辿ったか、覚えていないワケではあるまい?」

「サー! イエス! サー!」


 見事な最敬礼。けど、そこはマムかと。


 て言うか、殆ど生ける伝説と化しつつあるような男が、こんなにも顔色を青褪めさせるなんて。

 一体ジャッカルは元夫とやらに何をしたんだ。恐ろし過ぎる。






「ヘル・シンゲン。ひとつ尋ねても構わないかな?」


 延々と鳥居を潜り続けるだけの作業に飽き、暇潰しにでもなればと口を開く。


「おうよ、バシバシ来やがれってんだ! ただし二次関数の問題とかは勘弁な!」


 そんなもの誰が聞くか。


「どうして」


 ――『アンタやハガネと、斬ヶ嶺鳳慈あの人。戦ったら、どっちが強い』


「どうして先刻、ツキヒコから受けた問いに、答えなかったんだい?」





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