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「着いたぞ諸君。目的地だ」


 足を止めたジャッカル女史が、軽く指を鳴らす。


「いや。正しくは、目的地への入り口か」


 整然と並ぶ鳥居で織り成された三叉路。


 異様な気配。周囲の空間が歪んでる。

 一見、三本全て徒歩五分も要らんような短い直線だと言うのに、実態は複雑に曲がりくねった上、完全索敵領域を突き抜けるほど長い。終わりが分からん。


「気持ち悪っ……えぇ……ここ入るの……?」


 空間認識に於いては俺より遥かに鋭敏な感覚を持つリゼが、担いでいた大鎌を石畳へ突き立て、二歩三歩と退く。


「船酔いしそう。嫌よ私」

「しかし『死神』殿、他に道は無い。君の異能も含めて、な」


 肩をすくめ、淡々と告げるジャッカル女史。


 リゼの空間転移は、今この瞬間迄に於いて、全人類の誰か一人が一度でも足を運んだことのある場所に限られる。

 殆ど縛りとも呼べんような緩い制限だが、高難度ダンジョンの深層となれば話は別。

 況してや、ここは八十九階層。那須殺生石異界どころか、世界九ヶ所の難度十を全て合わせてさえ、辿り着けた探索者シーカーの数は百にすら届くまい。

 必然、死角も多くなる道理。


「……サイテー」


 やがて観念したらしく、盛大な溜息と共に悪態を吐き、俺へ寄り掛かるリゼ。

 大丈夫か、と耳元で尋ねたら、スカルマスクを外せとジェスチャー。


 望み通り外したところ、撫でる程度に喉を噛まれた。

 なんだコイツ。






「さて諸君。この道を抜けるには、三方を同時に進む必要がある」


 簡易な地形図を幾つか空間投影させつつ、述べるジャッカル女史。


「等間隔に並ぶ鳥居を、概ね同じタイミングで八十八回潜る。そうしなければ、入ったが最期、永遠に出られない」


 …………。

 今サラッと恐ろしいこと抜かしやがったな、このヅカ女。


「だから先に伝えようよ。そういう情報」

「クハハハハッ!」


 ヒルダの苦言も、どこ吹く風。キョウ氏を筆頭とした御仲間方の苦労が偲ばれる。


 まあ、いい。兎に角、三手でペースを揃えりゃ問題無いワケだ。

 全員の腕輪型端末を同期させて連絡取り合えば余裕余裕。クリーチャーも居ないっぽいし。


 懸念としては、この捻じ曲がった空間内で接続状態を維持出来るか微妙な点だけど、そん時はそん時ってことで。


「俺ぁ真ん中の道にしとくか。リゼ、ヒルダ、行くぞ」

「お待ち下さい、ろくでなし」


 と。踏み出しかけた足を押し留めるかのように、u-aが口舌を紡ぐ。

 しかも直球での罵詈雑言付き。ロボット三原則を教えてやろうか貴様。


「僭越ですが。人員の割り振りは、私に決めさせて頂きます」

「……あァ?」





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