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今晩のメインディッシュは肉じゃが。
しかし味付け用の麺つゆを切らしていたので、買いに出た帰り道。
「あァ?」
フィンガースナップで火花を熾しながら歩いてたら、ふと耳朶を掠める異音。
空を仰げば、不可思議な軌跡を描き、目の前に降りて来る何か。
……何か、と言うか。どう見てもUFOだった。
円盤型の古典的なやつ。
「リゼ。俺氏、絶賛、第一種接近遭遇中」
〔は? なんなのいきなり、とうとう壊れた?〕
写真を撮りまくりつつリゼに電話を繋いだところ、頭くるくるぱー扱いされてしまった。
もし逆の立場なら、たぶん俺も同じ反応する。
〔意味不明な寝言並べる暇あったら早く帰って来なさいよね。お腹空いたんだけど〕
UFOより晩飯が大事と申すか貴様。
そりゃそうだ。
通話を切る頃には、すっかり興奮も冷めていた。
未確認飛行物体がナンボのもんじゃい。
「ン」
そんな折。UFO下部から伸びるアブダクション的な光帯に包まれる形で現れた、宇宙服姿の人影。
すわ第三種接近遭遇かと身構える此方に対し、ゆっくりとヘルメットを取る相手側。
「――イマカエッターノ! スパゲッティーノ! お懐かしや月ちゃん、久方ブリオッシュ! マリトッツォ!」
宇宙人じゃなかった。
てか、キング・オブ・アホの吉田だった。
「――、――――」
「ホイコーロー、チンジャオロース。フィッシュ&チップス、メシマズイギリス〜」
「――――、――――」
「オランダオランダ、チューリップ! ナンデヤネン、ワイナミョイネン、イシノウエニモザンネン!」
地球上の生物では絶対に発声不可能だろう頭の痛くなる音を撒き散らす、人類との意思疎通が出来るかさえ疑わしいレベルで凶悪なフォルムをしたエイリアン。
一方、意味不明なボディランゲージと併せ、適当な語句を並べているようにしか思えない吉田。
だがパッと見、コミュニケーションは成立してるっぽい。
どうなってんの。
「――――」
頭上に疑問符踊らせる俺を他所。やがてエイリアンは口らしき箇所から棘と粘液だらけの触腕を伸ばし、吉田と握手を交わす。
そして再びUFOへと乗り込み、凄まじい速さで空の彼方に消えて行った。
「ふいー」
俺の目でも機影を捉えられなくなった頃合。吉田が額の汗を拭う。
「……あーもー無理、マジあぢー。冥王星とは比べ物になんねー暑さ、地球温暖化やべー」
暑苦しげに脱ぎ散らかされる宇宙服。なんとはなし視線を向けると、メーカーロゴらしきワッペンが目に付いた。
SC……字ぃ掠れてて読めねぇ。どこ製だよ。
いや、そんなことより。
「今の奴、なんつってたんだ」
「ほへ? さあ、分っかんね。俺ちゃん英検四級だけど、冥王星人語の科目は取ってねーもん」
…………。
このところ、コイツはこういう奴だから、と理解やツッコミを放棄し始めてる自分が居る。
これが大人になるってことなんだな。ちょっぴり切ない。
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