何気ない日常に私は何を求めるか。

鬼頭 くるみ

第1話 武田芽衣

「友人」。それは果たして作って楽しいものなのだろうか。

 私の名前は武田芽衣。どこにでもいる高校一年生。周りと同じように、朝学校に来て席について授業を受けて家に帰る。特段変わったこともせずただ時の流れに身を任せて一日一日を流されて過ごしているだけ。そうして今まで過ごしてきた。最も、対人関係をほぼほぼ持たないというのが私のアイデンティティーなのかもしれないが。

 正直、対人関係を築くというのは極めて面倒だ。いつからこうなってしまったかというと、確証はないけれどおそらく小学5年生のころだろう。「できることなら自分一人だけで生きていたい」それは昔も今も変わらぬ私の望みだ。

 入学式後初めての授業日である今日、教室内の人の多さに圧倒され、こんなに人多かったっけなと驚くとともに中学までの9年間、こんな人ごみの中でよく弱音も吐かずに過ごしてきたなと感心してしまった。えらいぞ、私。そんな中、教室の隅で一人窓の外を眺めている子を見つけた。私と同じで人と関わるのが苦手な子なのだろうか.その子の周りに生徒は一人もおらず、見るからに近寄らないでとオーラを出しているようにも思えた。今まで何人か私と同じような性格の子は何人か見てきたがその子たちと違って、まっすぐ何かを一点をまっすぐに見つめるその瞳に私の心は見る見るうちに吸い込まれていった。席を立ち、座席表を確認する。「横山敏夫…」ん?男の子?と思ったら逆を見ていた。あるあるだよね~。と自分に言い聞かせながらそれとは対角線上に位置する窓際の一番前の席に目を移した。「印南椿季」なんだこのお堅い名前は…ええっと…「いなみつばき」あ、ひらがなにすればそうでもない…そんなことを考えながら座席表の前でニヤニヤしていたら、いつの間にかその席に彼女の姿はなかった。他人に話しかけるようなたちではないのに、久々に声をかけたくなってしまった。なんだったんだろうあの感じ…まぁいいか。昼休みにでもまた見てみよう。そう思っていたが、その日、それきりその子は教室に姿を見せることはなかった。

何のために学校に来ていたのやら…。


「おっと、これはめいめい。」

声がする方を振り向くとそこには松井がいた。仲がいいというわけでもなかったのだが、中学の時に同じクラスだったので辛うじて覚えている。というかなんだ、めいめいって私は羊か何かか…「松井じゃん。久しぶり~卒業式以来だっけ?」そんなたわいもない話を振ってみる。こう、他人と立ち話ができるくらいには私だって成長した。えっへん。

「ん?今朝話したじゃん。」

マジか…私もついにおばあちゃんに…と思ったが、よくよく考えたらそうだったかもしれない。何しろ今朝はあの不思議な女の子のせいで上の空だったから覚ええていないのも無理はない。

「えぇっと…そうだったっけ?忘れちゃった。」

「しっかりしてくれよ~全く…。今帰り?途中まで一緒に行かない?」

「いいけど…ほかの二人は?」

「あれ?ほんとだ…あいつらいないじゃん。」

しっかりする方は松井のほうじゃないのか全く…。松井にはいつも一緒にいる子が二人いる。名前は、うろ覚えだけど…確か、佐藤と鈴木だったっけ?いや、全国苗字ランキングの一位と二位がこうも都合よく出てくることもない…うむ。忘れてしまった。

「まぁ、たまにはそういう日もあっていいかな」

松井は開き直ったように私に笑顔を向けながらそういった。

「そういうことなら…まぁいいよ?」

別に一緒に帰ろうというお誘いを拒む理由もないので途中まで一緒に帰ることとなった。帰りながらあれやこれや話したのだが、それは右から入って左に抜けていく一方で、何一つとして頭に入ってくることはなかった。

家に着くころには体力はすり減り、何をすることもなくご飯を食べて寝てしまった。

今日はいろいろと疲れた。そして学校へ行くことすら億劫に感じられるのだった。そんな時、ふとあの子の顔が頭をよぎった。あの子はだれでどんな子なのか。やはり少し気になる。

「もう一日くらい頑張ってみるかな。」

そう自分に言い聞かせて明日のために英気を養うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る