究極のデスゲーム「棒が一本あったとさ」
ちびまるフォイ
ダブルミーニング
なんだ……? 何も見えない。
ここはどこだ。どうなっている。
「おはよう」
どこからか声がする。
目隠しに手をかけられて外された。
四方が鉄の壁に囲まれた地下室のような場所。
椅子にしばりつけられた俺は右手しか動かせない。
目の前には机が置かれ、鉛筆と真っ白い紙だけが置かれている。
「ここから生きて外に出たければ、絵描き歌に合わせて絵を書くんだ」
「え、絵描き歌……?」
「もし、絵描き歌の最後が間違っていれば君は死ぬ」
「ちょっとまってくれ! 絵描き歌ってなんだよ!?
ここはいったいどこで、俺は何したっていうんだ!」
質問に答えられるよりもはやく、部屋のスピーカーから絵描き歌のメロディが流れ始めた。
聞いたこともない曲に戸惑う。
♪ ぼうが1本あったとさ
棒!? 縦なのか!? 横なのか!?
どっちかわからない。長さだって紙を横断するほど長いパターンだってある。
こんな一言で書くべき棒を特定できるのか!?
♪ はっぱかな?
疑問形!? 絵描き歌って、絵を描かせるための指示じゃないのか!?
描き手に解釈をまかせるパターンってあるのか!?
はっぱかな、と問われても何を描いていいのかわからない!
♪ はっぱじゃないよ、カエルだよ
嘘だったーー!!!
ちくしょう! 葉っぱだと思ったから葉っぱを描いちゃったじゃないか!
カエルだったら最初からカエルだと教えてくれよ!!
カエルなんてどこに描けばいいんだ!
こうなったら今の絵を強引にカエルに近づけるしかない!
♪ カエルじゃないよ、アヒルだよ
いやどっちだよ!!!
もはや絵描き歌が信じられないよ!!
カエルだって言ったからカエル描いちゃったじゃないか!
カエルからアヒルへのメタモルフォーゼさせるのは無理があるだろう!!
アヒルをこのまま描いていいのか!?
実はアヒルもだましで、アヒルを描かないほうがいいのか!?
♪ 6月6日に
日付!? 急に絵から離れた!?
なんだ急に6/6って言われてもわからないぞ!?
紙のすみっこに日付を書けばいいのか!?
絵描き歌なのに日付をダイレクトに描かせるなんて……はっ!!
66。
この数字を意味することは……悪魔!?
海外では666を悪しき数字だと考える場合がある。
カレンダー的に6/66はありえない。つまり6/6が悪魔の日。
この絵描き歌は……まさか、悪魔の降臨儀式なのか……!?
♪ 雨 ざーざーふってきて
知らんがな!! 悪魔どこいった!!
雨!? しずくをどこかに描けばいいのか!?
というかさっき日付の話しだったじゃないか!
日付と天候……天気予報のような記号をどこかに描けという話しなのか!?
♪ 三角じょうぎにひびいって
どこだよ! どこから三角定規出てきた!?
絵描き歌の振り幅がでかすぎて、まったく想像できない!
ヒビの入った三角定規っていったいどんなものなんだ!?
直角三角形か、正三角形、二等辺三角形という線もある……!
わからない! ちくしょう! 絵描き歌止まってくれ!
せめて考える時間をーー
♪ あんぱん2つ 豆3つ
急に料理!? 三角定規で料理しはじめた!?
あんぱん2つってどこに描けばいいんだ!
そもそもあんぱんって見た目的に普通のパンと同じじゃないか!?
中身割らないとあんぱんだとわからないぞ!
豆3つということからつぶあんだと豆がかぶっちゃうから
ここでいうあんぱんはおそらくこしあんバージョン。
しかし豆ってどこに描けばいいんだ!
豆ってなんだ! 黒豆か白豆かでもかなり違うぞ!?
♪ こっぺぱん2つくださいな
だから最初に言っとけって!!!
あんぱんとこっぺぱんで注文をわけるんじゃないよ!!
コッペパンは真ん中に裂け目があるバージョンもあるから
この場合のコッペパンのイメージが多すぎて特定できない!
でも、あんぱんとコッペパンで別の絵描き歌にしたってことは
おそらく形状に差をつける必要があったに違いない。
最初からあんぱん4つくださいな、ではなかったのはそういう意図だろう。
絵のゴールがまるで見えない。
絵描き歌は完成形を知っている前提で描かせている。
今、俺が描いている絵が最終的に何になるんだ。
間違えれば俺は殺されてしまう。
考えろ。コレまでの絵描き歌の中にヒントは合ったはず。
棒。
葉っぱ。
カエル。
アヒル。
雨。
三角定規。
あんぱん。
豆。
こっぺぱん。
「はっ! まさか……!!」
これまでの歌の要素が一気に線でつながった。
それは、橋の下にいたアヒルの話。
6/6 大雨の日。
カエルの声に誘われて帰り道に児童が見つけたのは、1羽のアヒルだった。
洪水で流れてきた棒に羽を痛めたアヒルは身動きが取れない。
棒をとってあげてもアヒルはすっかり衰弱していた。
児童はアヒルを安全な場所に逃してあげると、
羽が治るまで下校のたびに給食で出てきたあんぱんやコッペパン。
パンがないときは豆などをあげていた。
そして、回復したアヒルは児童にお別れと感謝を告げて泳ぎ去っていった。
「わかったぞ! これまでの絵描き歌はすべて水辺に関連している!
つまりこの絵は、アヒルとの友情を描いた絵だったんだ!!」
♪ あっというまに、コックさん (完)
「なんでだよーー!! もう全然関係ないじゃん!!」
部屋にいた男は銃口をこちらに構えた。
「ダメだな。お前の絵はまるでコックさんじゃない。
ゲームは失敗。お前には死んでもらう」
「ま、待ってくれ……話を……話を聞いてくれ……!」
「ゲームオーバー」
バンッ。
部屋に銃声が響いた。
銃を持っていた血を吹いて男が倒れると、その後ろに別の男が立っていた。
男は料理長がかぶっていそうな長い帽子をかぶっている。
その手には、硝煙が立ち上る拳銃を握っていた。
「コックさんじゃない、シェフと呼べ」
究極のデスゲーム「棒が一本あったとさ」 ちびまるフォイ @firestorage
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