第64話「交戦」

 魔族の少女が笑ったまま三人から距離をとる。

 そして着地した直後、力強く地を蹴った。

 

 その瞬間を狙って俺も跳躍する。


 《鑑定》したとおり結界には外から侵入を阻止する効果はなかったらしく、すんなりと入りこむことができた。


 魔族がシリルたちに攻撃する寸前、俺の膝蹴りが魔族の少女の顔をとらえる。


「ふぎゃっ」


 完全な不意打ちが決まり、魔族の女は後ろに吹き飛ぶ。

 ワンパンで倒せるほど甘くはないが、とりあえず余裕はできるだろう。


「無事ですか?」


「デュノ殿!?」


 俺が声をかけると三人の少女たちはそれぞれ驚愕をあらわにする。


「どうして気づいたの?」


 と殿下が聞き、


「結界を展開されてから誰も来なかったのですが」


 とシリルも不思議そうだ。


「話はあとにしましょう。まだ倒せてません」


 俺が言うとシリルたちの視線が立ち上がった魔族に向けられる。


「まさかワチの結界が通用しない猛者がこんなガキだなんて……見たかぎりだと《王国三強》じゃなさそうだね」


 魔族の女は鼻を抑えながら警戒半分、興味半分の赤い瞳で俺を見た。


「魔族か。王女殿下に何の用だ?」


 三大戦力には効かないと思っていたということは、それなりに下調べはしているのだろう。


「答えるわけないだろ」

 

 魔族の女は鼻で笑う。


「生け捕りは無理かな?」


 生け捕りできるならそれが一番なんだが、ここは王都の通り道で近くに民家がある。


 おまけに背後にいる殿下たちをかばう必要もあった。

 

「言うねえ、人間風情のガキが」


 魔族の女はイラっとした顔をした直後、結界を解除する。


「なんて挑発には乗らないよ。普通に考えりゃ誰かに伝えてきただろうからね」


 そして魔族の女は自分の影に沈んでしまう。

 一部の魔族が使える《影移動》という魔法だ。


 結界魔法といい、魔法が得意なタイプなんだろうか?

 そのわりには殿下たち相手には魔法を使っていなかった気がするが。


「逃げられたか」


 俺としては逃げてくれた、という風に解釈している。

 魔族と王都のど真ん中で周囲をかばいながら戦うなんて、そんなのはごめんだ。

 

 勇者様や大賢者様だっていやだろう。

 周りに与える損害を度外視してもいいなら戦いようはあるが……。


「本当は見逃したのでは?」


 とシリルが声をかけてくる。


「でしょうね。近くに民家があるし、わたくしが足手まといだしね」


 と殿下も言った。

 そんなことないって否定しても通じる相手じゃないな。


「とにかくご無事で何よりです」


 殿下が無事かどうかでいろんな人間の運命に影響が出ると言っても過言じゃない。

 それが王族って生き物だ。


「あなたが来なかったら危なかったわ。どうもありがとう」


 殿下は立ち上がって礼を言う。

 黙って礼をしてそれを受け取る。


「シリル、エマ、ふたりとも無事ね?」


「はい」


 ふたりの護衛も小さな傷があちこちついているものの無事だった。


 二対一、それにおそらく魔族が本気じゃなかっただろうとはいえ、大したものである。


 殿下が自慢していたのも納得だ。


「魔族の攻撃をしのぎ切るなんてすごいね」


 と褒めるとふたりはちょっと戸惑う。


「一撃で追い払ったあなたに言われても困るだけよ」

 

 殿下が笑いながら指摘してくる。

 おっとそうだったか。


「そんなつもりはなかったんですが」


 頭をかいてごまかす。


「わかってるけどね。あなたがここにいるってことは、アデル様は無事に屋敷にいるのかしら?」


 殿下に聞かれる。


「ええ。屋敷に滞在してる使用人は全員護衛でもあるので、注意喚起をうながして俺は様子見に来たんです」


 本気じゃない魔族ひとりくらいなら撃退できそうな戦力だ。


「なるほど、じゃあ王宮まで護衛をお願いしようかしら」


 殿下は微笑みながらお願いという形の命令を出す。


「御意」


 断れないし、断らないほうがメリットは大きいのでふたつ返事で引き受ける。

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