第15話「郎党入り」
「それはかまわん。デュノの家だと学費を出すのはきつかろう。おまえなら学費免除の特待生になれるかもしれないが、生活費はどうするのだ?」
とアガット侯爵様はおっしゃった。
たしかに生活費の問題があるな……前世だとモンスター協会に登録して、モンスター退治で生活費を稼ぐという手があったんだが。
「残念ながら王都の滞在費は出せませぬ」
と父さんは言うが、あまりつらそうじゃないよね。
いやまあ野暮な追及はやめておくか。
「私の郎党に加わるなら、将来の幹部候補として扱おう。学園への推薦も書くし、生活費も支援しよう。おまえほどの才能を庇護するのも貴族の務めだからな」
「ありがとうございます。お世話になります」
これ以上の待遇は今の俺には求められないだろう。
それにアガット侯爵様の好意を無下にして、感情を損ねないほうがよいという打算もある。
「ほう、決断が速いな。英雄の卵と見える」
アガット侯爵様は愉快そうに笑う。
「たった今よりユーグ・デュノはわが郎党とする。今日よりこの屋敷で暮らし、諸々を学ぶがよい。ファシュ、面倒を見てやれ」
と言い残して取り巻きを連れて立ち去る。
あれ、これで終わりなのか?
もうちょっと何かあるだろうと思っていたんだが。
拍子抜けしているとアデル様に肩を叩かれる。
「やったわね。いきなりわたしの専属は無理だったみたいだけど、今後に期待しているわ」
いや、俺を専属にする前提で会話するの?
と思ったけど、俺にも彼女にも決定権はないだろうから黙っておこう。
「アデル様、そろそろお時間です」
ノエミさんが話しかけると、アデル様は笑顔を引っ込めて甘い匂いとともに俺から離れる。
「やったな」
アデル様と入れ替わるように父さんが近づいてきて、笑顔で話しかけた。
「相当な高評価だぞ、あれは。郎党入りはできると思っていたが、まさか学園の授業料も滞在費も負担していただけることになるとは」
「俺も驚きだよ」
本当に驚いたことはアデル様と知り合ったことや彼女の性格なんだが、そんなことはとても言えない。
「ファシュは郎党の子でおまえと年も近い。いろいろと面倒を見てもらうといい。父さんはもうあまり教えられないから。それじゃあ、たまには家に顔を出せよ」
ちょっとさびしそうに言って、父さんは手をふって屋敷の外に出ていく。
貴族社会ってこういうところがあると知っていたつもりだが、今の俺は着替えすら持っていないことに誰も言及しないんだな。
そして今度は赤髪に茶色い瞳のマーグ兄くらいの少年が、俺に近づいてくる。
「お屋形様から指名があった、ぼくがノイ・ファシュだ。ぼくが指導役になるようだな」
「よろしく」
俺たちは握手をかわした。
「おまえほどの逸材が仲間に加わるなら、俺たちは歓迎するぞ」
とボネが言うとみんながいっせいに拍手してくれる。
「十二歳であれなんだから末恐ろしいよな」
「学園に通って学べば、いったいどこまで強くなるんだろうな?」
みんなワクワクしているような口調だった。
誰もが歓迎ムードなので正直ちょっと安心する。
敵意や悪意にさらされながら暮らすのは消耗するからな。
ただ、最初に聞いておかなきゃいけないことはある。
「えっと俺は着替えとか持ってないし、どこで眠ればいいのかもわからないんですけど」
見たところ年長者しかいないので敬語を使って問いかけた。
「ああ。よそはどうかわからないけど、アガット侯爵家ではちょくちょくあるんだ。お屋形様と会ったその日のうちに郎党に採用って例がね」
ファシュが微苦笑とともに答える。
「だから郎党用の宿泊部屋が用意されているし、他の準備もある。今ごろ郎党つきの使用人が君の着替えを調達したり、食事を準備しているはずさ」
なるほど、いきなり採用の前例が何回もあるからこそ、スムーズでみんなあわてなかったのか。
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