第13話「腕試し」
「ところで何を騒いでいたのだ?」
アガット侯爵様はふしぎそうに問いかける。
「お父様! 彼、ユーグをぜひ取り立ててください! わたしの専属に欲しいです!」
「何!?」
アガット侯爵様は驚いていたが、俺だってびっくりだよ。
郎党入りへの推薦をしてくれるって話じゃなかったのか!?
「ノエミ以外、誰もつけようとしなかったおまえが専属を欲しがるのは喜ばしいが」
アガット侯爵様の言葉に一瞬おやっと思う。
メイドはいるけど護衛はいないみたいな状況だろうか?
そこで視線が俺に集まっているのを感じるし、父さんにいたっては「やっちまったな」とでも言いたそうな顔だった。
まあ、やり方ちょっと間違えた感があるのは否定できない。
「いずれにせよおまえの専属をやるなら、強さが必要だ」
と言ってアガット侯爵様はじろりと俺を見る。
「デュノの息子、ユーグだったな。私に実力を見せてもらおう」
「はい」
いくら周囲が騒いだところでアガット侯爵様本人が納得しないと、郎党入りは実現できるはずがない。
そのことは承知しているので小さくうなずいた。
「相手はそうだな、ボネだ」
「はっ? では呼んでまいります」
アガット侯爵様の指示になぜかみんな驚いているし、ひとりが駆け出す。
「お父様、ボネはさすがにやりすぎではありません?」
アデル様が腰に手を当てて抗議する。
「何、おまえの護衛にふさわしいのかを見るのだ。可能なかぎり力を見せてもらいたいからな」
侯爵様は平然として答えた。
ボネって誰だかわからないけど、どうやら場の雰囲気的にかなりの実力者であるらしい。
「ボネっていうのはアガット家郎党の中でも一、二を争う実力者なのよ。今日はたまたま屋敷に詰めているのよ」
くるりとふり向いたアデル様が、不満そうな表情のまま教えてくれる。
大貴族アガット侯爵家の中でもトップクラスの実力者となると、国の中でも上位に入りそうだな。
目標にするにはうってつけだし、早めに会わせてもらうのはありがたい。
今の俺が勝てるとは思わないけど、どの程度やれるだろうか。
「チャンスだと思って頑張ります」
両手をパンパン叩くと、みんながまた驚いたようにこっちを見る。
「自信家……いや、単に前向きなだけか」
と言った上がった侯爵様は俺のことをちょっと見直したようだった。
駆けて行った取り巻きが、三十代のスキンヘッドの男性をともなって戻ってくる。
「旦那様、お呼びでしょうか」
スキンヘッドの男性が渋い声で問いかけた。
「ああ。そこにいるデュノの息子の腕試しをやってくれ。お前の後継者になれるかもしれない、相当な逸材らしい」
「そうなのですか」
ボネの水色の瞳が俺の姿をとらえる。
「ではさっそくやろう」
彼は俺に話しかけると、みんなと距離をとった。
「殺してはいけないが、多少のケガは覚悟するように」
とアガット侯爵様は言う。
本格的な手合わせなら仕方ないよなとうなずく。
「《火の矢》」
どうもボネは様子見する気配があったので、まずは先制攻撃を出す。
「!?」
ぎょっとしてあわてて俺の右手側に回避したので、
「《風の祝福》」
付与魔法を使って一気に距離を詰める。
「《火の祝福》」
ボネはぎょっとしながらも火属性の付与魔法を発動させ、俺を迎え撃つ。
この状況で殴りかかっても俺が痛い目にあうだけだな。
「《水の祝福》」
そこでボネと接触する寸前、付与魔法のかけなおしを行ってから殴る。
「ぐうっ」
大ケガをさせないように腹を狙った右拳は、しっかりとガードされたが彼からは苦悶の声が漏れた。
ガードごしに苦痛を与えられたということは、俺たちの出力差は相性をくつがえせるレベルじゃなさそうだな。
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