第10話「判断に困る」
まあ如才なく立ち回ったところで、今後もお相手させられるだけだと思うと、正直適当でもいいかなという気がする。
一対一ならともかく今はメイドさんもいる。
アデル様の無茶ぶりに応えられなかっただけなら、侯爵様の不興を買わないだろう、たぶん。
と思って俺は実家のことを話してみる。
貧乏騎士がどんな暮らしをしているかなんて、おそらくアデル様は知らないだろうから新鮮に聞こえるはずだ。
隣で聞いているメイドさんが微妙な顔をしているのは、侯爵令嬢に聞かせることじゃないと思っているからだろう。
それでもアデル様自身がいやがらないかぎりはさえぎられない。
そのアデル様は、
「へえ、騎士の暮らしってそうなのね。デュノ家はお父様の郎党じゃないから、直接支援するのは難しいわね。あ、だから屋敷に呼んでお仕事を頼んでるのかしら」
意外なことに真剣に聞いてくれたし、聡明そうな発言もする。
そうか、父さんが呼ばれているのは、同じ派閥の寄り子に仕事を与えるという理由があるからか。
貴族社会にうとい俺じゃそこまで気づいてなかった。
もしかしたら上下関係が厳しかったりするのは、単なる序列の問題だけじゃないのかもしれない。
「そこまで考えてませんでした。アデル様はすごいですね」
同じ年なのに、俺は前世の知識と経験があるのに、アデル様との差を感じる。
それと同時に感心もした。
生まれによる差だってあるんだろうが、けっしてそれだけじゃない。
「ふふん。上に立つものはそれなりの見識が必要だと、お父様とお母様、それにお兄様たちもおっしゃっているもの」
アデル様は得意そうに胸を張る。
どうだと言わんばかりの表情はかわいいし、年齢のわりにけっこう大きい。
「お見事です」
と言うと、とたんに彼女の表情が冷たくなる。
「くだらないお世辞はいらないわ」
サファイアの瞳にはっきりとした失望が宿っていた。
好かれる必要はないと思ってはいたけど、あまりきらわれるのもこわいんだよな。
「ごめんなさい」
とりあえず謝るが、彼女の機嫌はすぐになおりそうにない。
「何か埋め合わせをしてくれるなら、考えてもいいわよ」
とアデル様は言う。
これは彼女なりの妥協、もしくは救済の一手だろう。
ここで癇癪を起さなかったのは、そこそこ好かれていたせいだろうか。
「埋め合わせ……」
何とかピンチを切り抜けたいところだが、何も思いつかない。
アデル様は催促することなく、悩む俺を見守りながらじっと待っている。
「えっと、他にも使える魔法を見せるというのはどうでしょうか?」
結局他に何も思いつかなかったので、魔法を見せることを提案するしかなかった。
「わたしはかまわないけど、あなたは平気なの? 自分からそう言い出すと、わたしのワガママのせい、だけじゃすまないわよ?」
無茶ぶりしてくるワガママお姫様なのか、それとも気遣いできる女の子なのか、判断に困ることをここで言われても。
「平気ですよ」
今日はまだ数回しか魔法は使っていないから、五十回は撃てるはずだ。
それに《風の息吹》などを使うだけで侯爵様へのアピールはできるだろう。
「十回くらいまでなら」
「十回も?」
何気なく言ったつもりだったが、アデル様に聞き返されたあげく、メイドにまじまじと見つめられてしまったと思う。
一日に何回魔法を使えるのが今の時代の平均なのか、父さんに聞き出すのを忘れていた。
「強がっているわけじゃなさそうね」
俺の表情を観察していたアデル様が言う。
「もしも事実なら、わたしからお父様に推薦してあげる。デュノの子なら、郎党入りの資格はあるはずだしね」
それはけっこう魅力的な提案だ。
貧乏騎士の次男は、誰か有力な貴族の後ろ盾を得ないと生きていくのがつらいもんな。
「お願いしてもいいのですか?」
おそるおそる聞くと、
「……急にやる気になったわね。わたしの相手は面倒そうだったのに」
アデル様が不満そうに口をとがらせる。
隠してたつもりなのに、ばればれだったらしい。
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