生き返りたいほどあなたが愛おしい

@maasya7463

1日目~私は死んだ~

 気付いたら私は死んでいた。確かあれは彼の家からの帰り道。車に轢かれて、病院まで行ったのは覚えている。そのまま気を失って、気づいたら今。


 …私は彼氏の「陸」の部屋にいる。


 私がこうして陸のそばにいるのは、なにか未練があるからじゃないかと思って、陸に言葉を伝えようとしてみたけど、陸には全く聞こえていないみたい。陸は部屋の中でずっと独り言を喋っている。


「ウソでしょ、絶対ウソだよ、うん、ウソだ。」


 そんなことを言いながら、何度も私にLINEを送っている。


-由衣?

-由衣ー?

-返事来るよね?

-だってこれ届いてるじゃん

-おーい


 陸のそんな姿を見て、私は悲しむことしかできない。本当は、ここにいるって伝えたいし、私はもういないことも伝えたい。でも、どうすることもできないでいる…。


 そこに、電話がかかってきた。


「はい…?」

「もしもし」


 電話先から聞こえたのは、聞き覚えのある優しく低い男性の声。


「え?あの…この番号って由衣のじゃ…」

「由衣の父親です…。由衣の彼氏の陸くんだよね?」

「はい」

「LINE、届いてるよ。ありがとう。ありがとうね。ただ、由衣はね…」


 そういうと、泣き声が聞こえてきた。パパの泣き声なんて聞くのはいつぶりだろう…。パパ、ごめんなさい…。


「陸くん、最後に…由衣の顔見に来てくれないかな」

「…」

「顔見るのは辛いだろうけど、きっと由衣は君に会いたがってるよ…。会ってあげてくれないか?」

「…」

「待ってるよ、急に電話してすまないね…。」

「はい…」


 そういって電話を切ると、携帯を持って黙り込んだまま、陸は天井を見上げた。私としては…死んだあとの私の顔なんて見てほしくなった。私ここにいるし…。


 1時間ほどたって、陸は立ち上がって歩き出した。いつもは少し外に出るだけでもお洒落をするはずの陸が、スウェットで髪もボサボサのまま、外へ向かった。陸が向かった先は、私の家だ。

 陸の後をついていくと、まるでデートしているような気分で、自分が死んでしまったことを忘れてしまいそうだった。でも、陸は私に気づくことはなく、淡々と家まで進んでいく。

 どこに出かけるときでも手を繋いでいてくれたのに、今は手を繋いでくれない。それだけで、私がもう存在していないというのを改めて感じられた。


 家に着いた陸は、インターホンを鳴らそうとしなかった。手を見ると、強く拳を握っていて、少し震えている。

 家の前で立ち尽くすこと10分ほど、玄関の扉があき、パパが出てきた。


「陸くんかな…?」

「…」

「あがりなよ」

「はい…お邪魔します」


 パパは目を真っ赤に腫らして、今にも泣いてしまいそうに眼をウルウルさせていた。こんなに弱弱しいパパは見たことない…。本当に、ごめんなさい。


 陸とパパはリビングのソファに座り、話し始める。


「陸くん…ありがとうね」

「いえ、大丈夫です」

「なんか…飲むかい?」

「いえ」

「…そっか…」


 無言の時間が数分続き、話を切り出したのはパパの方。陸の前で涙を流しながら話し始めた。


「信じられないよな…いや、だってね、今日だって俺と顔合わせたんだから。元気だったんだから。もしかしたら、今だって、「ただいま」って帰ってくるんじゃないかって思っちゃうんだよ。でもずっと帰ってこない。何時間待っても帰ってこないんだよ。」



「…見ます」


 陸がやっと口を開いた


「由衣…見せてください」

「ありがとう、本当にありがとう。ごめんな、辛い思いさせてごめんな。でも、由衣も辛いと思うんだよ、見てあげてくれ」


 死んだ私を見た陸は、何も言わずに唇を震わせ、私にも見せたことのないようぐしゃぐしゃな顔で泣いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る