第8話

「思い過ごしならいいんですが、どの程度の脅威かわかりませんし不用意なことはしないほうが得策だと思います」


 冷静な立花の言葉に、言葉も出ずこくこく頷く倉橋。


「続けますが、私のスキルには結界、自己治癒、鑑定、水魔法があります。結界は防壁のようなものでしょう。自己治癒はそのまま自分の傷を癒すもので、鑑定は」


 串に刺さった肉を鑑定し、それを見せる。


「このようにそのものが何かを調べる事が出来ます」

「便利ですね」

「そうですね。ですが、能力やスキル、ステータスから考えて私は前面に出て先ほどの肉の相手、魔物やらと戦うのは厳しいです。ここから離れて人里を目指すにしてもどうしても倉橋さんの力を頼らなければならないのが現状です。

 私もできる限り危険がないように力を使うつもりですが、倉橋さんの力を貸してくだいさいませんか?」

「なるほど。たしかに私の方が荒事に向いてるみたいですね。わかりました、もちろん協力させてください。立花さんが居てくださると私も心強いです」

「ありがとうございます。本当に助かります」


 立花は礼を言って手を差し出した。倉橋は一瞬きょとんとしたが、すぐに気付いてその手を取り慎重に握って、よろしくお願いしますと返した。石を粉砕した自分相手に手を出してくれるというのは、思ったより信頼してくれているようで倉橋は嬉しかった。


「では早速ですが、お互いの能力を確認したいと思います」


 姿は五歳児だがテキパキとした口調で宣言する立花に、サーイエッサーと敬礼しそうになる倉橋。


「まずは倉橋さんから見せてもらっていいですか?」

「わかりました。何をしたらいいですか?」


 立花は聞かれて腕を組む。


「そうですね……特殊な能力もですけど、基本からやりましょうか。全力で飛んでみるとか」

「飛ぶ……ジャンプですね」

「あ、待ってください、少し離れてもらっていいですか」


 ちょっと嫌な予感がして後ろに下がり距離を取る立花。倉橋はその意味がよくわからなかったが、言われる通り立花から離れて準備をした。


「じゃあやってみます」


 二度三度と屈伸をしてから、倉橋は軽く膝を曲げ、そして大地を蹴った。


ドゴンッ


 飛んできた石やら土やらに、反射的に顔を腕で庇う立花。そっと伺うと、自分の周りをうっすらとした虹色の膜が覆っていた。


「結界……か?」


 そして視線を転じてみれば倉橋の姿はなく、倉橋がいたところにしっかりクレーターのようなものができていた。

 すいっと視線を上に向けると、何やら黒い点が見え、声が聞こえてくると共に大きくなってきた。


「ぁぁぁあああああ!!」


 どん!という骨折間違いなしの着地音。倉橋は四股を踏むような姿勢で、両手をバランスを取るように広げたまま着地していた。アライグマの威嚇のポーズに近い。もしくはアリクイか。衝撃緩和の着地技術などお構いなしの姿だ。


「………死ぬ」


 ポツリと出た感想に。感性は常人のままかと少しだけ安堵する立花。


「いやー………びっくりして死ぬかと思いました。結構遠くまで見えましたけど、人里は近くに無さそうでしたよ」


 衝撃から秒で立ち直った倉橋に、立花は精神力の三百という数値は相当な数値ではないかと感じた。


「それは……有益な情報ありがとうございます?」


 立花も同程度の数値なのだが、本当に同程度なのだろうか疑問に思いつつ、それでも次に進む。時間は有限、答えが出ない問いに思い悩む暇はないと切り替えて。


「次は全力で走ってもらおうと思ったんですけど、被害が大きそうなのでやめにしましょう」


 主に立花と自然への被害だが。


「じゃあ何します?」

「どの程度の重いものが持てるのか……と思いましたが、良さそうなものがないですね」


 見回してみるが周囲には大きな岩など見当たらなかった。


「あのあたりの木は、地球にいた頃だとどのくらいのものに感じるかわかりますか?」


 森林破壊という名の土木工事の余波で薙ぎ倒されていた木の一本を指差し尋ねる立花。大人が腕を回してギリギリ届く程度の太さの木だ。既にそれを余裕で持てると確信して聞いている立花に、倉橋もあまり疑問を抱かず近づいて手をかける。そしてあっさりと持ち上げた。


「うーん………重量感は感じるんですけどねぇ……大根ぐらい?」


 だいこん。

 見た目とのギャップに言葉を無くしそうになるが、頭を振って言葉を紡ぐ立花。


「なるほど。ではそれは投げられそうですか?」

「投げるのは、はい。出来るかと」

「投げてもらっても?」


 わかりましたと、倉橋は軽くポーンと投げ、湖に派手な水柱を作った。


「体幹がぶれてない。自分以上の重量でもいけるのか……その辺にも能力が適応されているのか?」


 倉橋の投擲姿を観察していた立花は、下手したら怪獣と取っ組み合いの喧嘩が出来るかもしれないと思った。どうやって踏ん張れているのか謎ではあるが。


「立花さーん、次は何をしますかー?」


 少し離れたところにいる倉橋は腕を組み考えている立花に手を振る。姿だけ見れば頼られるのは倉橋の方なのだが、完全に立花に任せている。知力五十一がそうそうに根を上げた結果かもしれない。


「倉橋さん、そこの木を軽く蹴ってくれますか? 軽くでいいので、怪我をしないように」


 たぶん十中八九怪我しないだろうなと思いつつ立花が指示すると、わかりましたーと倉橋は勢いよく生えている木に蹴りを叩き込んだ。


バゴッッ


 大人の胴程ある幹が見事に消し飛び、遅れて上部の幹がだるま落としのように落ちてきて倒れた。

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