第7話

 立花はステータスオープンと呟き、いつのまにか消えていたディスプレイをもう一度出して倉橋に見せた。


「これは見えますか?」


 差し出されたそこには手のひらしか見えず、倉橋はおずおずと答えた。


「えっと……手のひらですね」

「では倉橋さんもステータスオープンと言ってもらえますか?」


 素直に倉橋は応じて先程見たディスプレイを出す。一応、項目をチェックして貧乳の二文字が無い事を確認。立花に見せる。


「はい、どうぞ」


 差し出されたものの、立花の目には手のひらしか見えていない。また見えなくなっていたが、それは想定内だったので立花は自分のディスプレイと倉橋が見せてくれているであろうディスプレイを繋げるように意識する。

 倉橋が壊したディスプレイを直した時は咄嗟の事で無意識に近かったが、今度はきちんとイメージした。と、カチリと何かがハマった音がして差し出された倉橋のディスプレイが見えるようになった。


「これで私のも見えるようになったと思いますが、どうでしょう」


 再度立花から差し出されたディスプレイが、今度は倉橋にも見えた。


「見えます! すごいですね、どうやったんです?」

「私の能力のところにある結合をイメージしました。倉橋さんのそれと私のそれを繋げるように。ゲームで言えばパーティメンバーになるとか、チームを組むとか、まぁそんなイメージですが……」


 言いかけて、立花は倉橋がゲームをしない事を思い出す。


「二台のパソコンに穴を開けてセキュリティを通したようなものですかね」

「なるほど」


 しげしげと立花のディスプレイを見ていた倉橋は気づいた。ずいぶんと自分の数値と異なる。


「あの、これってもしかしなくても身体能力を表してますよね?」

「そうですね。馴染みが無いでしょうがゲームではよくある表示だと思います。

 名前に性別、年齢、状態、身長体重は一般的なものですからいいとして、体力は持久力のようなもの、筋力はそのまま腕力や握力の事、魔力は大抵魔法を使う適正や使える量、規模を表します。器用は手先の器用さだけでなく身のこなしというものもおそらく含まれるでしょう。速力は筋力とかぶる部分もありますが身体を動かす速度の事かと。知力は知識や思考力を表していると思います。精神は……なんというのでしょうね……慣れない事に対する耐性だったり、衝撃的な事に対する打たれ強さだったり、そういったものだと思います。運はそのまま運の良さかと。ここまでで疑問はありますか?」

「意味合いはなんとなくわかりましたが……」


 倉橋は立花と自分のそれを見比べた。どう見ても数値にかなりの隔たりがある。

 立花は一つ考えて、足元の小石を拾った。


「倉橋さん、これを思い切り握ってみてくれますか?」

「はぁ」


 言われるまま、小石を受け取り思い切り握りしめる倉橋。

 ギャリッという音を発して小石は粉々に砕けた。


「動物の頭が破裂したと言っていましたから、そのぐらいの筋力があるとは思いましたが……手のひらは大丈夫ですか?」


 個人的にはなんでその細腕で石を割れるんだ。筋肉どこいったと文句を言いたい立花。しかし倉橋に向ける文句ではない事ぐらい承知しているので言いはしない。 


「大丈夫です。ケガはないです。あれの頭が柔らかいわけじゃなかったのか……うすうすわかってはいたけど……あれ? でも私、普通に服を脱ぎ着出来ますしお肉の串は握りつぶしてません。金髪逆毛の超人達って力あがったらコップとか割りまくってませんでしたっけ?」

「アニメは見るんですね」

「親が見てたので」


 あのアニメも親世代になるのかと、自分もアニメコンテンツで嗜んだだけの癖に感慨深く思う立花。


「おそらく器用の値が作用しているのではないでしょうか。無意識に調整しているのだと思います」

「はぁ、なるほど……」


 じゃあ立花さんを抱えてこれたのもそのおかげかと思う倉橋。子供姿の彼をいきなり絞め殺さなくて良かったと安堵する。

 物騒な安堵をされているとは知らない立花はさくさくと話を進める。


「能力とスキルという項目は少々私も解釈に悩みますが、スキルの方が系統立った技術で、能力というのが潜在的な力の方向性ではないかと考えています」


 例えばと、自分のディスプレイと倉橋のディスプレイを指差す立花。


「さっきも言ったこれらを見えるようにしたのも能力にある結合ですが、技術と言うにはかなり曖昧な力だと思います。だからスキルが発現する方向性か、スキルとして系統立っていない力そのものの属性を示しているように思います」

「ははぁ……あ、もしかして私がこれを壊した時もその力で直したんです?」

「そちらは修復ですね。

 倉橋さん、お願いですからそれを壊さないでください」


 衝動的に破壊してしまった時の事を真面目に言われて、倉橋はさすがにもうしないと若干恥ずかしく思う。だが立花は直すのが面倒だからという意味で言ったわけではなかった。


「これも推論の域を出ませんが、この世界は本物の神、または神のような存在がいると思われます。そしてその神がこの世界を管理するためなのか、観察するためなのか理由は不明ですが、このような個人を数値化するようなシステムが存在している。先程倉橋さんが壊した時、エラー警告のようなものが聞こえたんですよね?」


 言われて倉橋は思い出す。脳内に響いたけたたましいエラー音。


「……警告というか、イレギュラーを感知して排除しようと……して…」


 自分で言いながらさぁっと血の気が引いていく倉橋。もし、立花の話が本当なら、倉橋は神から排除されそうになっていたという事になる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る