第43話分解酵素
人間の体には知っての通り食べ物を消化する器官が存在する。
それと栄養を分解する器官が。
長らく栄養を分解する器官はそれのみだと思われてきた。
だが、咲枝天音博士をはじめとする生物学によって新たな研究の成果が上がっていた。
「うすうす気づいていたよ。でもまさかとも思った」
新型マシンメトリィからなる一連のマシンメトリィには等しくその機能が備わっていた。
「皆さんは誰かの影響を受けたことはありますか?
今の時代おそらくほとんどの方が天音博士の名前を上げるんでしょうね。
私もその一人ですが、それより前はどうですか?」
タケルの声はビルのモニターとかではなく、マシンメトリィ一人一人の口から語られていた。
ある者はしゃがれた声で、ある者はアイドルが壇上から、ある者は亡くなったお母さんの残したマシンメトリィから語られていった。
「たぶん、それぞれバラバラになってくるんでしょうね」
そこからの話は一般の方は想像つかないようなことで、私達研究所の社員だけが知っていればいい内容だった。
「私達研究所のグループ社員は研究を通して、人間の体を知ってきました。
おそらくその大半は誰でもわかる内容だと思います。
ですが、影響力について皆さんはどの程度知っていますか?
ことによっては奇跡にさえ例えられる力を」
そう昔から魔法だの奇跡だの神が何かしただのと言われて結局何もわからず終いのあの力。
当の私達にもまだわからない。
私は赤い首飾りを握りしめた。
「私達はその奇跡を手に入れ、今使いこなしています。
歴史の裏にずっと隠れて語られてこなかった謎の力、リットミールを」
たぶんタケルは明かしても手出しできないと踏んで発言したんだろう。
リットミールは研究所のトップシークレットだった。
発表したら何が起こるかわからない。
そもそもそうやって止めたのはタケルだ。
_なんで今になって。
「そんな大事なことなんで今頃?と思う方もいるでしょう。
遅れたこと、心より申し訳ありません」
タケルがそう言うのに合わせて目の前のマシンメトリィも頭を下げた。
たぶん各地のマシンメトリィも同じようにしているのだろう。
それを見て私は思わず、
「そんな、、タケルだけのせいじゃないのに」
自分のマシンメトリィから聞いているだけにいたたまれなかった。
そこからは恐らく初めて知るだろう人のために、リットミールについての知識を話していった。
初めてその存在が確認されたのは今から300年ほど前の記録「異次元災」まで遡る。
それまでその存在は確認はされても意識はされず、何となくの形だけでスルーされてきた。
大した文明もなかったので、手出ししなかったと、私達は見ている。
異次元災より前はその力に振り回されっぱなしだった。
現代で言うところの「魔法」が当たり前に使える人間は戦争の道具にされ、敵も味方も人を恨み奪うことで日々を繕う。
それが現代まで続いてきた。とタケルは話す。
通算900年もの間、人間、そして生き物はリットミールを使いこなせなかった。
そしてひと息タケルは深呼吸をすると、
「しかし、私達にはマシンメトリィがあります。天音博士もいます」
胸に手を添えて「大丈夫」と呟いて
「世界を平和にしましょう。私達の世界をみんなで力を合わせて」
言い切ったタケルの言葉が途切れると、言葉に合わせて上げられていた腕もスイッチが切れたように落ちる。
その瞬間、私は思わず自分のマシンメトリィに抱きついた。
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