超短編図鑑

平山圭

飛び散る

 右足首から翼が生えた。手のひら大の小さな翼で、くるぶしの上に一つずつ、合わせて一対生えている。感覚はあり、羽を抜くと痛い。ふくらはぎに力を入れると、弱くはばたくように動かすことができる。その光景はギリシャ神話を彷彿とさせた。左足にも同じ変化が起きて、空を飛べるようになるのだろうか、と私は無邪気に考えたが、その期待は静かに裏切られた。


 翌日の早朝、右足は自らを脛の中程で切り離し、開け放しだった東の窓から飛び立った。脚の切り口は鋭利な刃物で斬られたように滑らかだったが、血は一滴も流れておらず、よく見ると薄い皮膜が形成されていた。失われた右足は、一晩寝ると元通りに生え変わった。翼は付いていなかった。


 一週間後、左手にも同じことが起こった。翼が生え、それを使って飛翔し、逃亡した。あとにはありふれた新しい左手が生えてきた。そういうものか、と私は思った。


 そして今朝、洗面所で顔を洗っているとき、私は生えかけの小さな翼をうなじの中央に見出だした。そら恐ろしいので、この文章を取り急ぎしたためた次第である。

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