ビタースイート
「俺も水城のことが好きだ」
そう圭司が告げた途端、架帆の目から涙が零れていた。
「わっ、ちょっ、なんで泣くんだよ!」
一ヵ月前は架帆からこう言われ、彼女の知らないところで自分が泣いてしまったとは絶対言わない。
三月十四日の今日も、一ヵ月前と同じように夕焼けが美しかった。
その時と同じ公園、夕焼けの下というシチュエーションで、圭司は架帆にあの日言えなかった言葉を届けた。
そうしたら一言目で泣かれてしまったのだ。
俺はお前が背中向けるまで我慢してたのに!なんて、そういうことを言うつもりはない。
この一言多くしかも口が悪い性格が、たくさん架帆を傷つけていたことを圭司は最近知ったのだ。
自分と同じくらい気が強いと思っていた架帆が、ある日隠れて泣いているところを目撃してしまった。
酷い言い合いをした後、傍から見るといつもの喧嘩別れに見えたかもしれないけれど。
そこでもう友情すら終わったと思っていたのに。
圭司は一ヶ月前には、架帆に告白されるなんてことも、今日こんなことを自分が言うなんてこともありえないと思っていた。
あまりにも不躾で無遠慮な言葉ばかりを振りかざしていたから、きっと心底嫌われていると思っていたのだ。
「沢山ムカつかせて、嫌われてると思ってたのにぃ」
嗚咽混じりに話す架帆には、いつもの勢いがまったく感じられない。
架帆も自分と同じように思っていたんだと気付けたことに安堵しつつも、罪悪感が強くなる。
沢山傷つけていたんだということを、改めて認識させられたような気がして。
「もうあんたにそう言われたからには、あたし信じちゃうから。
あんたにこの先何言われたって、あたしが何言ったって、あんたはあたしのことが好きなんだって信じちゃうから。
あたしがあんたを好きなんだってことも、
もちろん信じてね」
心臓が音を立てる一言を、静かに噛み締めていた。
泣くか話すかどっちかにすれはいいのに、という言葉もなんとか飲み込む。
飲み込む以前に、引っ込んでしまったというのが正しいだろう。
綺麗な顔をぐしゃぐしゃにしてなんてことを言うんだ。
なんてことって何よとか、また要らぬ口論の火種を生むかもしれないので、それも黙っていることにして。
「簡単にこの口の悪さは直らないと思うけど、まあ...」
信じて。
その一言は伝えてみると震えていた。
心は正直というものか。
「なんかいつもの平坂と違うぅ~っ、気色悪いぃ調子出ないぃ」
「はぁっ!?お前がいきなり泣くから気が気じゃなくってっ...」
え、というように架帆が顔を上げた。
ああ見るな、今は見るなという言葉はもう出せない。
一言多い性格がこんなに恨めしく思えたのは初めてだ。
今の自分はどんな表情を浮かべているのだろう。
「平坂らしくないけど全然悪くないよ。
うん、これも好き」
ただ、大粒の涙を拭って微笑んでは、
またまた心臓に悪い一言を投げてくれたわけだから、
これはこれで、よしとしようじゃないか。
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