Dipendence

あたしたちは、寄り掛かりながら生きすぎた。


殺風景なキリヤの部屋で、あたしは背中越しに「別れよう」と告げる。

キリヤからは何の反応もない。それは覚悟していた。


あたしとキリヤは、求め合うようにして出逢った。

一人じゃ立って歩けない二人が、寄り添いあってやっと足踏みができるようになって。

先の見えない未来よりも、今の砂のように流れていく一秒のほうが大切だった。

でも、あたしは気付いてしまった。

そんな依存しあう関係は、いつか壊れてしまうだろうと。


いつからだっただろう?

肩に掛かるキリヤの重さが、苦しくなってしまったのは。

人の重さを知って、寄り掛かれなくなってしまったのは。

大好きなのに、好きな気持ちが距離を作ってしまう。

あたしにはそれが、耐えられそうになかった。


別れようと言ってしまってから、

あたしはあたしの言葉への強い実感を手に入れた。

それは安らかな気持ちとは程遠く、

明日からは目覚めたら隣にキリヤがいない日々が始まるってこと。

あたしの日常の中から、キリヤはいなくなってしまう。

それは世界が終わってしまうことと同じだった。

なんてことを言ってしまったんだろう、あたしは。

そんなこと、あたしたちには出来るはずがないのに。

欠けてしまったらもう、どこにも行けないはずのに。


それでもあたしは、宣言を撤回するわけにはいかない。

こうすることが一番いいと、あたしはもう答えを出してしまっている。

きっとキリヤだって分かっているはず。

あたしたちはもう、このままではいられない。

いつまでも、一人で立てないようではいけないのだと。


しんと、重苦しい沈黙が続いた。何だか最後の審判を待つ罪人になったみたい。

キリヤは何も言わなかったし、あたしも言うことはなかった。

あとはキリヤの返事を待つだけだと思っていた。


あたしは、背中越しにキリヤの手を探った。

最後に少しだけ、キリヤの手の温もりを感じていたかった。

床を滑るように指を這わせて触れたキリヤの手は静かに震えていて、

あたしはすぐにキリヤが泣いていることに気付いた。

いつもそうだった。そうだったね。

キリヤが声をあげて泣くことはない。

泣いていることを悟られないように、身体を震わせて声を殺す。

でも、言葉にならないメッセージをいつも、その涙に込めていた。

そしてそんな危うさや儚さを内包したキリヤを、あたしは愛しいと思ったんだ。


涙の波が伝わってきて、あたしの視界もぼやけてきた。

キリヤの涙に隠されたメッセージは、引き止めることよりも別々の道を歩くことを選んだものだ。

でも、気持ちが無くなったわけじゃない。

どこまでも溢れて止まらないくらいだった。

それが分かっていても、もう今までのままではいられない。

今よりも、先の見えない未来を選んでしまったから。


いつか一人で歩けるようになったら、またキリヤに会いたいと思う。

キリヤのいない隙間に沢山苦しむだろうけど、

この別れ道の先にある未来を、今は信じて描いてみたい。


もうすぐ、この部屋には鍵が掛かるだろう。

新しい環境で、未来に向かって歩くために。




(2006年頃公開作)

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