それでも、世界は回る

隅田 天美

拝啓 筆を折る君へ

拝啓 名も知らない君へ。

 君は、筆を折ることを決めた。

 私はその決断を褒めることもしなければ叱責することもしない。

 それが性格によるものか、環境のせいかのかは聞くまい。

 ただ、安心してほしい。

 君が筆を折ったところで誰も何の影響もない。

 例え、君の自称・ファンがいたとしても、彼ら彼女らも普通に生活をする。

 誰も嘆き悲しまないし、社会が混乱することもない。

 これは挑発ではない。

 多くの先人たちが歩んできた、言うなれば小説家の亡霊がいるからだ。


 実際、私の足元には数多の亡霊がいる。

 彼らはたくさんの言い訳を作り、たくさんの欲に負け、筆を折った。

 では、彼らは不幸か?

 まあ、音信不通になった人もいるから一概には言えないが、みんな結構幸せに生きている。

 子育てに勤しむものもいれば会社で働いている人もいる。


――彼らに文才がなかったか?

 いや、文才なんてもの自体が最初からない。

 もしも、文才なるものが天性のものなら三歳児だって小説は書けるはずだ。(まあ、小学生で文学賞を取った子供がいましたが)

 文才とは、続ける努力とたゆまぬ研鑽が求められ、環境によって運が生まれ、その中で名声を得て余人がつけた結果論に過ぎない。


 君は今、満足だろうか?

 それとも、不満だろうか?

 どちらにせよ、結果は変わるまい。


 私が伝えたいのは、『小説家になる事』が全てではないということだ。

 周りを見れば、すぐわかるだろう。

 世の中は小説家だけで回らない。

 多くのサラリーマンなどの労働者で成り立っている。

 電車を運転する人、家を建てる人、会計事務所で働く人……

――自分が抜けても別に……

 というのは大きな間違えだ。(リストラなどもあるので簡単には言えないが)

 君が抜けた穴は必ず別の誰かが埋め合わせをする。

 ケツ拭いをする。

 普通に生活をして普通に働き、学ぶ。

 それは尊いものだ。(別に引きこもりとかを差別しているわけではない)


 また、小説を書くことだけが趣味ではない。

 事実、私はスポーツジムに通っているし、ガンプラも作る。

 これらは小説に役に立つが、それを意識することはあまりない。

 

 もしかしたら、君は『小説を書かない自分と世界』が怖いかもしれない。

 安心してほしい。

 世界は広いし、楽しいことも、苦しいことも、辛いことも、嬉しいことも、無限大にある。

 多くの選択肢から、君は自由に選んでいい。

 実際、君は「筆を折る」という選択肢をした。


 ただ、図々しいお願いが一つある。

 落ち着いてからでいい。

 子供たちに、これからの後輩たちに君が見てきた世界を話して欲しい。

――世界は絶望だけじゃない。

――全ては世界にある

――生きることだけは諦めるな


 私は、このメッセージを文章でしか表せない。

 仮に私の芸術の才能が有れば、絵画にし、漫画を描いていたかもしれない。

 音楽の才能が有れば、音楽にしてYouTubeで配信していたかもしれない。

 華麗な演技力があれば、舞台に立っていたかもしれない。

 私には何もなかった。

 だから、文章(小説など)を未練がましく書いている。

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それでも、世界は回る 隅田 天美 @sumida-amami

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