第21話 欲望と情熱のお風呂道

「馬車でお疲れになった事でしょう。この後はお風呂でゆっくりして下さい」

 そんな嬉しい言葉のおかげで早くもお風呂だ。待ちに待っていた中のおっさん万歳タイム。なので当然素直に好意をうけとってお風呂へと向かう。


 風呂場は学校寮の共同風呂ほどではないがかなり広い。浴槽もシンプルな焼土仕上げだが広い。5人なら余裕で足を伸ばせる。

 そして屋内だけでは無く外にも浴槽がある。こっちも仕上げはシンプルだがやはり広い。これならきゃっきゃウフフにも充分な広さだ。


 今回、私は風呂の為に道具や装備を準備してきた。風呂用の椅子、簡易シャワー、ヘチマたわし、液体せっけん、自家製リンス。このうち完全な新兵器は風呂用の椅子、簡易シャワー、ヘチマたわし。液体せっけんは市販の高級品で自家製リンスはクラス内で配っているものと同じだ。


 風呂用椅子というのは少なくともこの国では普及していない。基本的に風呂ではお湯のある湯船の周りの床に正座する形で座って身体を洗う。でもこれだと背後から誰かを洗う際、自分の膝が邪魔になって密着しにくい。


 だから今回は大きさや形、素材を指定して木工所に作って貰った。椅子に座ればある程度足を広げて前方向に密着するのも楽だから。なお形状はあくまで昔から日本にあったようなスタンダードな形。本当はスケベイス形状にして微妙な部分も洗えるようにしようかとも考えたのだがそこは理性が勝った。偉いぞ私(の中のおっさん)。


 簡易シャワーは

  ① じょうろの口部分のようにホースに接続できる金属製シャワーヘッド

  ② 水が漏れないよう特殊な縫製をした革製ホース

  ③ 足つきのそこそこ大きな桶

の3部品で構成された代物で、勿論私の設計でそれぞれ鍛冶場、革細工屋、木工所へ発注したオリジナルだ。なお足つき桶にはシャワーヘッドを固定できる場所も3段階の高さでついている。


 使用方法は簡単。①、②、③をそれぞれ接続し、③にお湯を入れるだけだ。③の水面よりシャワーヘッドが低ければお湯が出てくるというだけの代物。でもこれがあると髪をはじめあちこち洗い流す作業が捗る。勿論私の手で皆さんを洗ってあげるのだけれども。


 ヘチマたわしは本来のヘチマたわしを薄型にスライスし、厚みのある布で半分を覆ってくっつけたもの。つまり手でさすりさすりして洗う為の専用道具。これで洗う場合、右手はタワシの裏側の布地部分に入れ、手のひら方向で肌をさすりさすりするようにして洗い、左手は洗っている身体がうごかないよう支える役目になる。つまり両手の平で相手の身体の感触を確認できる優秀な設計だ。勿論私の設計で作って貰った逸品。


 これで全員とスキンシップをはかる準備は万全だ。風呂も広いし万事OK! 真っ先に服を脱いで中に入り、自在袋からグッズを取り出して皆を待ち構える。


「あれ、アン、何か色々持ってきたね」

 最初の獲物はリュネットだ。


「ここへ座って下さいな。この道具を使えば気持ちよく綺麗になりますから」

 なおこの気持ちよくという言葉は、この文章にはない私アンフィ―サが主語である。勿論その事をリュネットに説明はしない。


「何か侯爵令嬢にいつも身体を洗って貰って申し訳ないよね」

「いえいえ。これもお付き合いですわ」

 シャワーヘッドを取り出すと位置エネルギーでお湯が出てくる。この際、桶の中のお湯は魔法で風呂より少し熱めにしておくのがポイントだ。シャワーにするとどうしても温度が下がるというか低く感じるから。


「あ、これ、こんな感じでお湯が出るんだ。便利だね」

「それでは目を瞑って下さいな。上から順に濡らして洗いますから」

「うん、わかった」

 リュネットは目を瞑る。全く私を疑っていない。

 そんな訳で私は……


  (自主規制)


 そんな訳で4人全員を洗って、お返しに全員に洗って貰ってからお風呂へ。勿論露天風呂を満喫だ。

「外でお風呂というのも気持ちいいですわね」

 ああ先ほどは極楽タイムだったな。もう一生風呂でいいや。そんな事を思いつつ月並みな感想を言わせてもらう。


「それにしてもアンはお風呂が好きなのですね。あのリンスというものも衝撃でしたが、本日は他にも色々道具があって驚きましたわ。それにしても侯爵家の方に身体を洗って貰うなんて何か申し訳ないです」

 

 いいやリリア、むしろご馳走様です。なんて本音は勿論言わない。特にリリアのようなロリ貧乳枠が仲間になってくれて本当に嬉しい。なんて事も勿論言えない。


「でも同じパーティで迷宮ダンジョンにも行く仲間なのですわ。ですからこれくらいのスキンシップは普通です」

 これくらいの表現でとどめさせてもらう。


「それにしてもこの広くて外も見えるお風呂、やっぱり最高ですわ。こうやって浸かりながらのんびりしていると天にも昇る心地です」

 洗っている最中はもっと天にものぼる心地だがそれは言わない。


「そうでしょうか。確かに広いのは気持ちいいですけれど、私はあまりのんびり浸かっているのも退屈ですわ。今日は皆さんいらっしゃいますからこうやってお話も出来ますけれど」


 確かに若いうちは体温も高いせいか長風呂もあまり出来ないし、ただ風呂に浸かっているだけというのは退屈なのかもしれないなと思う。私は中身がおっさんだから長湯も大好きだけれども。


 幸いこの風呂場は屋内、屋外ともかなり広い。それに浸かっている姿もいいものだけれどたまには肩から下部分もあれこれ眺めたい。そういう意味ではちょっとこのお風呂、改良の余地があるかもしれないな。お風呂だけでも楽しめるような施設を追加するとか。


 スーパー銭湯とかでそういう設備はあったな。そしてこのお風呂、屋内と屋外にまだまだスペースがとれそうだ。なら設備を追加なんてのも出来るかな。そんな事を考えて私は口を開く。


「そう言えば昔、異国の本で様々な種類のお風呂の話を読んだことがあります。深くて立って歩くことで運動も出来るお風呂。逆に浅くて横になって寝る事が出来るお風呂。魔法で流れを起こしてマッサージ効果を与えてくれるお風呂。お湯の熱気を使って汗をかいて身体をリフレッシュさせるお風呂。そういった施設があれば退屈もしないしリフレッシュにもなるのではないでしょうか」


「是非その本を読んでみたいです。そういった施設があればこのお風呂も更に気持ちよくなれるでしょう。このユダニの共同浴場に設置するのもいいかもしれません。領民や訪れる方も喜ぶと思います」


 おっと申し訳ない。そんな本は存在しないんだ。実際は本では無くおっさんの記憶だから。


「残念ながらあの本をどこで読んだのかは覚えていません。ですが強く印象に残っているのでどんなお風呂があったのかはおぼえていますわ。もし宜しければ後で描いてさしあげます。構造そのものは難しくないので熟練の木工細工師ならそれほど手間なく作ることが出来るでしょう」


 おっとこれは楽しみだ。完成したら自分が楽しめるだけではない。他の皆さんが楽しんでいる処を見る事が出来るのだ。これはもう期待しかない。ふふふふふ……

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