第14話 ご馳走さまとこんにちは

村に帰って、空っぽになったお弁当箱を返しにセレネの家へ向かった。

途中で七色に光るアホな顔の鳥の群れが飛んでいった。

「なんか ご利益がありそうな鳥だな」

セレネの家についてもセレネはいないようで 

家の裏庭で音がするので行ってみるとセレネとサウレがいた。

恐らくサウレが作ったと思われる半球体の薄い膜の結界のなかで

セレネが影のようなものと戦闘のトレーニングをしていた。

「ウォーターバルーンって本当はこうやって使うのか?セレネって格闘タイプだったんだな」


セレネに見とれているとサウレが気付いたようで

「あれ オーレンスさんじゃないですか?」と声をかけてきたので

「美味しかったです。料理が上手なんですね」とお弁当箱を渡した。

サウレが照れ臭そうにはにかんでから「セレネのお弁当選んでくれてありがとね」と言っていた。

確か、セレネのお弁当は母親のサウレが作っているんだよな。

「死出のネックレス」を狙っていたのかな?それともセレネを戦士マクアに・・・。

「戦士マクア ハハ 推奨 ガハハ」

いや 待ってくれそれはちょっと・・


ニーマンたちと会話をしていると

「セレネって可愛いでしょ?ふふふ」

と唐突にサウレが問いかけてきた。


痛いところを突かれたように動揺をしてしまうと 

サウレは見透かしたように「ふふふ」と笑い出して

お弁当大会の裏側の話をしてくれた。


お弁当大会は最初の頃こそ戦士様に憧れる一人の女性の好意から始まったお弁当だったらしいけど

日を重ねるごとに参加人数が集まってきて戦士マクアが「死出のネックレス」を

賞品として用意してからは村の娯楽としてお弁当を競う母親たちの大会になっているらしい。

「安心しましたか?」と聞かれたけど「安心しました」なんていわないぞぉ・・。


「魔女の尋問、初めて見たでチュよ」

「戦士 マクア ざまぁ~ゲロゲロ!!笑い過ぎて涙が出てきたゲロ。シクシク」


セレネのトレーニングは俺たちが話している間に終わってしまっていたようで、

セレネは汗をタオルで拭きながらこちらへ歩いてきた。

「お母さん~! イヤリングにはもっと強い魔獣も記憶されているんでしょ?

ああ!あれ? オーレンス。来てたのね」


セレネは「汗をかいたから水を浴びてくるわ。中で待ってて」といって家に入ろうとすると

サウレが「オーレンスさん、お弁当がお気に入りになったそうよ」

「へぇ~ そうなんだ。それはよかったわ」

「それでね、セレネ。明日からはあなたがオーレンスさんにお弁当を作りなさいよ!!」

「え? それって? え?、イヤーよ!! 絶対にイヤ!!!だって私作れないもん・・」

「作らないから、作れないのよ!!」

そうして二人は構えると親子喧嘩が始まった。

サウレは 炎のキツネを数体召喚した。

「セレネ!そろそろ料理を覚えてオーレンスさんみたいな素敵な人を探しなさい!!」


「オーレンスですって!バカ!! なっ!何言ってるの? 

恥ずかしいこと言わないでよ!」

するとセレネは小さなウオーターバルーンを複数出してコブシや蹴りでキツネに水玉を飛ばしながら

格闘系の攻撃を繰り出した。


「ドッカン!」

「キャー」

数体のキツネは倒されたが逆に セレネの足元がオレンジ色に光った。あれはリスか?

小さな炎のリスがセレネの足元で爆発した。小さな爆発だったのでセレネが尻もちをついた。

サウレがゆっくりとセレネに近づいていく。

ニマニマと勝ち誇った笑みを浮かべてセレネの側に来て

「セレネ あなたはわかりやすいのよ・・。色々な意味でね」というと見下されたセレネは唇をかんで悔しそうだった。

泣き出しこそしないけど何だか可哀そうになってきたな。

「スパルタでチュ」

ああ コガネムシまで。

「ぶ~ん ぶ~ん」っとコガネムシも驚いて

飛んで行ってしまったし気まずい雰囲気だなぁ~


「なあセレネ、お弁当箱を返しに来ただけだから俺は帰るよ。お弁当は自分で用意するから大丈夫さ。

今日は ありがとう」


俺の言葉に母親との言い争いで顔をこわばらせていたセレネの顔がほころんだ。

「そう? 残念だわ。慣れない仕事で疲れたでしょ?」と微笑んで思い出したように

「そうだ!あなた、井戸の水が出せないってジェフラが言ってたけど本当なの?

オーレンスの家はもしかしてぇ~お金持ちなのかしらぁ~??ふふふ。

でもね 都ならともかく魔道具が使えないんじゃ。村では生きていけないわよ。

悔しいけど魔力の事ならこの人に教えてもらうといいわ 」と言ってサウレを指さした。


「この人とはなんですか!」とか言い争いになったけど セレネは家の中に入って行ってしまった。

そして サウレからは「お見苦しいところをお見せしました」とお詫びをされてから、

「井戸の水はともかくとして魔法が使えないのは、オーレンスさんは獣使いだからですか?」

と聞かれたので違うと答えると、

魔力の事ならわかる範囲で何でも聞いてほしいと言われて今度、相談に乗ってくれると約束してくれた。


「よかったでチュね。オーレンス! そうだ。診療所には行かないてチュか?」

そうだった。今朝のお弁当大会や木こりの仕事の最中も人が倒れたんだったな。

俺は療養所へ向かった。

道中で ニーマンたちからセレネにお弁当を拒否されたことをからかわれていると

「メェー モー  ああ、またか こりゃいけねぇ!」と声が聞こえてまたまた

羊たちに囲まれて身動きが取れなくなった。

そして 羊飼いのヨーゼンがやって来て 羊をどかせてくれた。


「オーレンス。初仕事はどうだった? お前はやっぱり動物に好かれる何かがあるみたいだ。

近いうちに俺の羊を隣の町へ売りに行くのだが お前も付いてこないか?

それに村にはミカニカという苦くてコクのある飲み物があるんだ。

一緒に飲みに行こうぜ」


町か。町にならコーヒーに変わる飲み物があるかもしれないな。

俺はヨーゼンについていくと返事をした。

ヨーゼンは 「よろしく頼むぜ!」と手を振りながら羊を連れて行った。

羊飼いへのスカウトも忘れていないようだ。

それにしても 羊飼いが背負っているあの鉄の塊のような大剣はあそこまでデカい必要はあるのか?

かなり重そうだ。

一撃で木製のおっさんなんて真っ二つにできそうだ。


療養所に付くとベッドに村人たちが横たわっていて、

今朝運ばれた女性や木こりのとこの男性も眠っている。

それにしても 運ばれた時よりも具合が悪いようだ。

肌の色なんて 青を通り越して緑色になっているけど

これは本物の医者に診てもらったほうがいいんじゃないか?

ここは村だから 本物の医者はいないらしくて

看護師なんてジェフラだからな。

「オーレンスさんじゃないですかぁ?初仕事はどうでした?」

その声は スニークか?

「スニーク驚かせちゃだめよ。 よし!とこれでおしまい。次にいくわよ」

ジェフラ可愛いじゃないか。

「そうでチュか?栗色の髪の毛をまとめ上げているだけでチュよ」

「動キ やすそウダ」

髪をまとめ上げただけで 魅惑ロングが爽やかアクティブに大変身している。

あいつは きっとスキル「ヒロイン」でも持ってるんじゃないか?


「仕事は何とかこなせましたよ。

スニークもジェフラも診療所でお勤めをしてたんですね」


「それはよかった。では また後程会いましょう」

スニークは ニコ!っと顔をほころばせ音もたてづに歩いて行ってしまった。

「オーレンス!!」

ジェフラ? ん? なんだ?

なんか俺の胸にジェフラが手を当ててきたぞ。

心臓の音を聞いているみたいだ。

「なーんだ 大丈夫みたいね。 それじゃ 私も行くわね じゃぁバイバイ」

魔法なのか?柔らかい手が胸に当たて・・

それからなぜかこの場所で、俺の心臓がドキドキしている。


「ベッドを見るでチュよ」


ベッドに寝ている人を見ると半透明の感が口から出いてそれは 以前見た事のある縄文土器のような

素焼きのツボにつながっていた。

点滴かな?でも それはもっと後の時代にならないと出てこないだろうし

点滴というより逆に何かを吸われているように見える。


「そのツボに何かいるゲロ、臭いゲロ」

フロンに言われて俺は身構えたけど一向に襲ってくる様子もないし

ツンツンしてから思い切ってツボの中身をのぞいてみると

黒い塊が入っていた。

これは 腐った玉ねぎじゃないか。しかも ピクピク動いてるぞ!キモ!


「オーレンス ドームに黒い塊を入れるでチュ」

「いい匂いだ。その黒いの 食べたいゲロ」

「オレ それ 食べタイ」

そして コガネムシも戻って来てドームの中へ入って行った。


攻撃力はなさそうなので、とりあえずツボの中に手を突っ込んでみた。

「べちゃ ぐちゃ」うわぁぁぁぁ 気持ち悪い


腐った玉ねぎのような感触の黒い塊を 震える手で引き上げるとドームの中へ入れた。

お腹壊すなよ!

ニーマンたちは待ってましたとばかりに ムシャムシャと塊を食べて喜んでいた。

よくあんなものを食べれるな・・・。

手の感触を思い出しながら自分の手のひらを見ていると

「オーレンス。 ベッドで寝ている村人たちを見るでチュ」というので

村人を見るとさっきまで青色を通り越して緑色になっていた村人の顔色が元通りに戻っていた。


これが原因だったのか?

かなり古いツボのようだけど 

ツボには模様というか読めない文字が刻まれているんだな。

この玉ねぎの正体は何なのかをニーマンたちに聞いたけど 

ご馳走だと思っている以外に何も知らないようだった。


まあ 何にしてもこれで村の奇病が収まったならいいとするか。

さてと 一日中仕事をしてさっきまで体がガタガタだぁ~って あれ?

なんだか体が軽くなったぞ。

スキップをしながら自分の部屋に帰ろうと思うくらい体が軽い。 


ジャンバルの像に差し掛かった時に声がした。

「村人を助けてくれてありがとう。オーレンス」

ん? ジャンバルなのか?


ジャンバルの像の前ではときどき 虫の羽音のようなかすれた声が聞こえてくることはあった。

けど 今ははっきり聞こえるぞ!

今は体調も 絶好調だしいっちょ踊ってやろうじゃないか!


「ジャンバル様! ジャンバ~♪ ジャンバル、ジャンバルぅ~♪ ほい↑ほい↑」

ジャンバルの前で ジャンバル踊りを踊って見せてやった。すると

「ふははははは!!よくぞ見つけた!ワシがジャンバルじゃ!」

ジャンバルは笑い始めた。

笑い始めて・・ずっと 笑ってから自分の生い立ちについて話始めた。


「古い物には命が宿るのじゃ。

古代の宿敵を倒すための知恵を残すためにワシは造られた。

ワシは長い年月を経て、古き物となり命を宿し村の者と暮らしたのじゃが

最初ワシに話しかけてきたのはジョナサンという子供だった、

しかし次にジョナサンが話しかけてきたときはジョセフと名乗っておったのじゃ。

・・・・じゃから 村人はみんなワシの家族なのじゃ。


しかし、最近、ワシのモデルになった存在が宿敵としていた敵の一部が目を覚ましおってな。

見ての通り、ワシの体は石じゃから動けば壊れてしまうし困っておったところへ

オーレンス お主が現れて助けてくれたというわけじゃ。礼を言うのじゃ!」


あれってボス的な奴だったのか?

倒したというか 育ち盛りのニーマンたちが食べたんだけどね。

ただ 長年石像をやってきたせいなのか、話と話の間が飛び飛びで1年、中には10年以上の

間隔が空いてしまうので詳しい事情までは分からなかった。

でも ジャンバル様は村の人たちが大好きな人だと言うことはわかった。


ジャンバルの話を聞きすぎたせいなのか、さっきまで体が軽かったはずなのに 

部屋に帰ると急激な眠りに襲われて眠りについた。


・・・・・

診療所には 異変に驚く二人の姿があった。


「村人の血色がよくなっているじゃないか?何があった!」

そういってツボの中身を覗き込んだが何も見えないようだった。


「覗いても無理じゃよ。「ニーマンの残骸」と呼ばれるものには、

見ることも触った感触すらない。

ワシですら魔道具を使ってようやく何とか出来ておるのじゃからな」


「英雄気取りの偽物は今まで村や町に一人や二人いたが

本当にニーマンに干渉できる奴がこの村にいるというのか?

こないだのサーチでは能力を持った村人はいなかったんだろ?」


「サーチはワシ依存の魔法じゃから限界もある。

都のギルドに連れていき全員を調べればわかるじゃろうがそうもいくまい。

じゃが 可能性があるとすれば、、お前の疑っていたオーレンス。

それに一番可能性が高いのが魔女の娘のセレネじゃろう。

じっくりと隅々まで調べてみたいものじゃ」


「可能性が高いのは女のほうか? 女なら剣より得意だぜ。

そうだな。「死出のネックレス」にソレをたっぷり入れておいてくれ」


「仲間にする気か?それとも・・お前は魔女のように人の心をもてあそぶ変態じゃからな」

「師匠の特訓の成果ですよ」

「ワシを魔女呼ばわりするでないわい。がははは。 

奇病騒ぎも収まれば 我々がこの村に滞在する理由もなくなってしまう。急ぐのじゃ」

・・・・・

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