第13話 踊るニーマンと可笑しな仲間たち

「さあ 帰ろう」

熱いココルカでもあればよかったんだけど 

スーちゃんが放心状態から元に戻るのにしばらくかかった。

それにしても スーちゃんの足取りは重たいな、

無理もない。早く親方のところへ連れて行ってあげよう。

でも もう少しで着くというところで「戻れない」と言いながら泣き出してしまった。

「スーちゃん、どうしたんだい?」

「スーね・・ スーはね・・もうすぐお姉ちゃんになるのにぃぃぃぃ!!」

どうしたのかと、理由を聞いてみると小屋を燃やしてしまった事とお漏らしを

してしまったことを気にしているようだ。


「スーちゃんは大人だろ?小人に襲われたんだから、それくらい 大丈夫だよ。」

といって スーちゃんの手を引いて二人で歩いて帰ろうとするけど、

数歩歩くと俺の手を引っ張って立ち止まってしまった。

「大丈夫だから 俺も説明してあげるから」と優しい言葉をかけながら手を引いて歩くけど

また数歩歩いたら立ち止まってしまう。

そして 何度かやり取りをしたのちにスーちゃんは涙をぬぐって森の奥のほうへ

駆けだして行ってしまった。

「オーレンス ダメでチュよ」

「ゲロゲロ・・だゲロ」

「オマエ スーちゃんより ツヨイ」

なんで?俺が悪いみたいな感じになってるぅ?

仕方がない、このまま森の奥へ行かれても困るし追いかけるか、「スーちゃん待ってくれよ」



スーちゃんはどんどん 進んでいく。

帰り道なんて考えていないようだ。無理もないけど。


「どうしよう。どうしよう。お漏らしバレちゃうよぉ。

セレネみたいにいじめられちゃうよぉ~。

お漏らしがバレたらお嫁に行けなくなっちゃう・・

オーレンスもいなくなったら、スー、一人になっちゃう・・」


「コツン! ドタ。。!」

「キャー小石・・ 転んじゃった。いたいよぉ~!!えぇぇぇん」

 

転んだまま泣きじゃくって起きないスーちゃんは

このまま地面の彼はと同化して土に帰ってしまいそうな雰囲気だった。

そんなとき 森の木の影から声が聞こえてきた。


「サブロウ! フロン! コルビン!」


手のひらサイズの三匹がスーちゃんの前に現れて飛び跳ねているぞ。

なんだろう?ふあふあでふさふさしている?

小さな羊さん?

でも 羊さんではなかった。

羊の毛のフェルトでできた。

小人にカエルにネズミのぬいぐるみだ。

「うわぁー ぬいぐるみ?可愛い」


・・・・・

「転んじゃいまチュたね。どうするでチュか?オーレンス」

スーちゃんと友達になってやってくれないか?

ニーマンの三匹は飛び跳ねた。

そして ヨーゼンからもらった羊の毛のマユ玉のようなフェルトを

ニーマンたちは 着込み始めた。

羊カエルとか受けるんだけど(笑)

・・・・・


さーあ みんな スーちゃんにお辞儀をするんだ

三匹はお人形のようにお辞儀をした。

それで十分面白いと思ったし、スーちゃんの目もキラキラしていて十分に喜んでいた。


けどニーマンたちはそれでは満足することはなく時計回りに歩きながら踊りを、踊り始めたぞ。

そして 踊りは物語になっていった。

元気のないフロンはダンスがうまく踊れなかった。

高くジャンプしすぎてしまうのだ。

それをサブロウたちが励まして 一緒に踊りを踊って仲良しになるという物語で

最後はスーちゃんの手の中でそっと動かなくなっていき、元のぬいぐるみに戻ってしまう。

けどフロンが最後に「次はスーちゃん!君の番だ!!」というジェスチャーを残して消える!

という物語だった。

スーちゃんも何度もうなずいて、元気がもらえたようだ。

っていうか・・ 完成度高いだろ!すごいな ニーマンって!!


ぬいぐるみを胸に押し当てて そっと目を閉じた

ニーマンたちはもう そこにはいない。

だけどスーちゃんは

「ふふふふ 可愛い↑↑」と言いながらホホを持ち上げてぬいぐるみに感謝をしているようだった。


スーちゃんはご機嫌が戻ったようだしそろそろいいかな?

「スーちゃん 探したぞ!ここにいたのか」

「あ オーレンス。迎えに来てくれたの?スーね。凄いもの見ちゃった。それでね。それでね。」

話を聞いてあげるとスーちゃんは喜んで村のみんなのいる方向へ歩き出した。

積極的に手間でつないできたぞ。

スーちゃんの話すニーマンの内容はメルヘンチックすぎて誰も信じてくれないだろう

けど最後にはフロンの入っていたぬいぐるみと将来は結婚したいと言ってたな。


フロンよかったな。

「嬉しいゲロ 涙ブシャー」


スーちゃんと大きく振るつないだ手を

俺も振替しながら楽しくみんなのところまで帰っていった。


一方 親方たちは準備をしている途中で小屋が燃えだし、

スーちゃんのいるはずの小屋に近づくことすらできず。

親方は 村人たちに引きづられる様に連れ戻されていた。


「うわーーん スー スー。スーが燃えてしまった・・」泣きじゃくる親方。


そして 親方を慰めるために村のみんなが親方を取り囲んでいた。

だけど 親方の後ろから愛しい声が聞こえてきた。

「おとぉーーーおさん!!」

スーちゃんに声をかけられて あたりは静寂が包んだ。

「おおー スー!!!! スゥーじゃないか! 生きていたのかぁあぁぁぁあぁ 」


鼻水をたらした親方は スーちゃんを抱きしめると毛深いホホをスーちゃんの頭にこすりつけていた。

感動の再会というか、男が子供のように泣きじゃくる光景に純粋な人の姿を見た気がした。

「よかったでチュね」

「オーレンス、オマエ いいヤツ」

「感動したゲロ ゲロシクシク」


ニーマンたちのおかげで人助けをすることが出来たよ。

こちらこそ助かったよ。

スーちゃんが俺に助けてもらったことを話したらしく、親方はゆっくりと立ち上がった。

「オーレンス殿!!スーを助けてくれてありがとう!!ありがとう。。あり。。あ?」

「パチパチパチパチ すげーぜ!オーレンス!・・・・ あ?」


俺に駆け寄って来て固い握手をしてきたけど

お礼を言いながら泣き崩れて頭が下に下がっていくと・・俺の股間が目に入ったようだ。

みんなも親方につられて俺の股間を凝視していた。

みんなに見られると気まずいし、

軽いノリで誰かツッコミを入れてくれたらいいけど、

村に来たばかりで そんなに仲のいい人もいないからな・・困った。

こうなったら 二人でお漏らししたことにしようか??

いいや お姉ちゃんになるスーちゃんに俺からのプレゼントだ。


「あはは 実は小人から逃げるときに やっちゃいましたへへへ、カッコ悪いですね」

へへへっと 頭をかくけど頭が真っ白になる。

もしかしたら髪を引きむしっても痛くないかもしれない。

長い、長い時間が経っているように感じるなぁ~だれか・・何かを言ってくれ。

親方は俺の肩を両手でガシ!とつかんで俺を見た。


「それは、お前が、お前が生きているってっことだ!!

なんにも恥ずかしい事じゃない。

生きていてくれて、そしてスーを助けてくれて、

本当にありがとうぉぉぉぉ シクシク」


「そうだぜ。オーレンスはもう俺たちの仲間だ。

ズボンを脱ぎ忘れてただけの事じゃないか?パチパチパチパチ」


オーレンスと村の人たちとの間にちょっとおかしな、信頼の絆が生まれたのだった。



「大丈夫じゃったか?村の衆~」

「くちた小人が暴れ出したそうじゃないか!!」

大トカゲと大ウサギがこちらへ駆けてきた。

乗っていたのは 戦士マクアとそれに賢者スデーモだ。


「待たせたな。小人はどこにいる?」


親方や門番のガネルは事の一部始終をスデーモたちに話した。

オーレンスがスーちゃんを助けて、

小屋が燃えておそらく小人は火の中に消えて一緒に燃えてしまったと話すと。

二人の顔がどんどん曇っていく・・


そしてマクアが剣を抜いて、腰に下げているヒョウタンを取り出すと液体を剣にかけた。

液体は剣に吸われて剣は燃えだした。

何をしているんだ??

これがこの世界の魔法剣か!しかし戦士マクアはその剣先を 俺に向けてきた。


「オーレンスと言ったな。死ぬ前に白状しろ!キサマは何者だ!

そして、なぜ お前には効かなかったのか!答えろ!!」

周囲は凍り付いて空気の流れが止まったけど

魔法剣だけはメラメラと俺を焼き尽くそうと燃えていた。


そんなとき 賢者スデーモが

「よさぬか マクアよ。ほれ!ヤツは運がよかっただけじゃ。

あやつの股間をよく見るのだ。」

戦士マクアは俺のビショビショになった股間を見て 

汚いものを見るように目を細めた。

「マクアよ。この世にはな、自尊心を捨てて生きる者もいるのだ。

そもそも、効かぬうんぬんという話ですらないのじゃ」とニタニタしながら俺を見ていた。


戦士マクアは俺を軽蔑するように口をへの字に曲げると

「ドガ!」っとグリーブの鎧をはいた足で俺を蹴り飛ばした。


俺の体は木に打ち付けられて 息が止まりそうだった。

「スパ! バギバギ!! ドッスン!」そして頭の上で何かの音がする。

目を開けるとマクアは八つ当たりをする子供のように俺が打ち付けられた細い木を

切り倒し、

さらにスパスパっ!とカッコいいフォームで素振りしてから剣をサヤに戻した。


「なんと なんと 情けないのだ。

自尊心を捨てて生きるなど、生きる屍ではないか?はっはっは!!がははは。

いいや、これは失礼した。

オーレンスよ。股間は乾かしてから村へかいるといいぞ。でないと女に嫌われる。

イヤ、その村娘が大きくなったら嫁に来てもらえるように今のうちから頼んでおくほうが賢明だ。

では我々は 小人の調査に行くのでこれで失礼する」


効かなかったって何がだ?俺に何かをしたのか?

それにしても 蹴られただけだけどコイツが強いとわかる。

身体能力が猫とライオンくらい違う、全く勝てる気がしなかった。

・・・行ってしまったか・・。

「元気出すでチュオーレンス」

ニーマンたちは俺を励ましてくれたけど

「気にスルナ。オマエ まだ これから強くなレル」

とコルビンまでが励ましてくれたのは意外だったな。

戦士マクアはライオンよりも強いってことか。


親方が俺に手を差し伸べてきて引き起こしてくれた。

「けっ! いけ好かない男だぜ。あの戦士マクアって奴はよぉ!」

「そうだ、そうだ」

ただ村の男たちは戦士マクアへの好感度が一気に下がったようで、

封を切ったようにマクアへの馬頭が飛び交った。

どうやらみんなも内心は、女好きの戦士マクアに腹が立っていたようだった。


今日は 仕事どころじゃなくなってしまったので軽く荷支度をして村まで帰ることになった。

スーちゃんのお漏らしはバレなかったけど俺のほうは・・帰るまでに渇くかどうかはわからない。

ゆっくり帰ってほしいな。。


見とれていると スーちゃんが俺の手を握ってきて一緒に歩き出した。

しばらく手をつないで歩くとスーちゃんは 「いつかオーレンスとも結婚してあげるね」

と言うと恥ずかしそうに親方のところへ戻っていた。



「スーよ、オーレンスと何か話したのか?」

「うんん、 なーんにも言ってないよ」

「そうか・・」

スーも親に隠し事をするようになったか、

少し寂しいが成長したようだ。


・・・・・


「見よ、マクアよ。くちた小人が動いたあとじゃ。まずは実験成功といったところじゃな」

「建物は全焼か、くちた小人たちは丸焼けになったみたいだな。

しかし本当に成功するとは、これは脅威だ!

くちた小人が復活するなら国を一つ落とすのも夢ではないぞ。

しかも その力にまさかオレの女好きが役立つとは思わなかった。 がははは」


「国を落とすか?後の国の復興に人生を使いたいとはくだらぬ話じゃな。

それよりよみがえった小人は性質が変わるはずなのじゃ。

また 倒された小人は今とはまた違う実を宿すようになる。

もしかすればその実の中に・・。

そのことに比べれば国なんぞ。がははは


それより、この村が今までの中で一番うまくいっておる。

お前はいい弟子じゃがジェフラと言いう元町娘がおるのが原因じゃろう。

マクアよ。何とかジェフラを仲間に引き入れてから次の村へ行きたいのう」


「ああ あの色恋娘か?それなら次のお弁当大会で決着がつく。

自尊心をボッキリと折るのは色恋より面白いと

兄弟子として早く教えてやりたいわ。がははは」


・・・・・

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