第11話 木こりの才能

「出発!!」

先頭は門番をしていたガネルが歩いていた。

斥候(せっこう)っていうらしいけど、矢と火種の入ったツボをもって

百メートル先を歩いて小人を警戒しているようだ。


俺は安全な最後尾のほうを歩いている。

俺の前はスーちゃんが大きなバスケットを持っていて、

トコトコと歩いている。あの中にコーヒーが入っているのかもしれない。


「スーちゃん そのバスケット重たくないかい?

そのバスケットの中にココルカがるのかな?俺が持ってあげようか?」


「このくらい大丈夫。ありがとう。

それよりお弁当を二つも持ってオーレンスのほうが重そうじゃない。

スーねぇ。木こり小屋のログハウスで豆を丁寧に丁寧に炒らなきゃいけないの・・・」


「・・・・楽しみにしてるよ。頑張ってね」


引き立てのコーヒーですか?そりゃー 楽しみですなぁ~

何度かスーちゃんのバスケットを持ってあげると声をかけたのだけど

いい子のスーちゃんは全然持たせてくれない、

俺は異世界コーヒーが待ち遠しくて仕方がなかった。

そうこうしているうちに、トカゲに乗った戦士様も合流して

「待たせた」とも言っていたけど 小人が出ることもなく無事に森へ着いた

だけど道具などが置かれている小屋の付近には恐ろしい物が敷き詰められていた。


「小人の墓じゃないか!!」


コケが生えてボロボロになった小人がいる。

腐って土に帰ろうとしていて小人からは木の芽が伸びていた。

そんな小人がゴロゴロと小屋の周辺に敷き詰められている。

お墓なのか? 小人のお墓を作るヤツなんているのだろうか?


「これは いったい何ですか?」と尋ねたら親方が

「これはコショウだ。それにこっちがナツメグ、こっちはセイジだったかな?」なんて言い出した。


確かに小人から生えている木はナツメグかもしれないけど、そう言うことじゃないんだ。

この小人の異様な光景はなんなんだ?

意味が分からず困惑した俺を眺めていた戦士様がほくそ笑みながら

「ぷっ。旅の方は知らぬようだ。小人から伸びる木に実る、実や葉っぱはほとんどが食べられるのだ」と教えてくれた。

俺は目を見開いて戦士様をみた。

すると 周囲からニタニタとした視線を感じる。みんな笑っている。

大好きな豚肉が、「実は豚から取れるのよ」と聞かされて驚いた子供の姿を見るような目だった。

コショウは小人から取る。それがこの世界の常識なのか?

ゾンビというか人形を供養する場所の成れの果てみたいなところでコショウの採取とか怖すぎるだろ。

その後はなんか 俺の真新しい服と村まで一人できた事から勝手な推測が広がって

街で何不自由のない暮らしをしていた俺が女に振られて飛び出してきたという設定になってしまったようだ。

「何も言うな」って 俺の肩に手をやって親方はうなずいていたけど。違うからね!



「うふふ。スーはココルカの準備をするね。みんな頑張ってね」

スーちゃんは 豆を入りる準備に火をおこし始めていた。

俺たちはオノやノコなんかの木を切る道具を選んで出発するようだけど、オノといっても

色々とあるんだな。


「こっちのオノを使うといいぞ」


適当なオノを選ぼうとすると戦士様が 俺の側に来て俺に合ったオノを選んでくれて

「お前には剣の才能もあるかもしれんな、期待してるぞ」と声をかけてくれた。

他にも何人かの不慣れそうな人たちに声をかけてあげているようで、村で人気者なだけあって

優しい人だな。

「臭うゲロ・・ゲ・」

でも 香水をつけているのだろうか?燻したような臭いがしてフロンは臭いと言っていた。


木こりの仕事は初めてだ。

みんなは自分の体格に見合った倒せそうな太さの木を見つけて配置についていった。

だけど親方はもっと太い木が欲しいようで、ワンサイズずつ大きな木を切り倒すようにと指示をだした。

それにつられて俺も大きな木を選んでしまったけど。

こんな木、倒せるだろうか?早速オノを振ってみた。

「コン!コン!コン! いたたぁ・・」


樹皮に傷をつけることはできたけど途中から全くオノが進まない。

だから力任せにいっぱいの力でオノを振りかぶったら 

転んでしまってサブロウが空間を広げてクッションのように受け止めてくれた。

「大丈夫でチュか?オーレンス」

もっと 細い木を選んでおけばよかったな・・。

周りを見渡すと俺と同じように苦戦している人がいる。

話しかけてみると「全然 進まない」と俺と同じ状態になっていた。


「村長の娘が可愛くて思わず引っ越してきてしまったのですが・・

村では色々な仕事を手伝わなければ生活できず、これほど大変だとは思いませんでした。」


宴のときに村長の娘に惚れて引っ越してきた人がいたって話を聞いたけど、

ああ この人だったんだ。割腹のいい男は汗を拭いて座り込んでいた。

「それより 今朝オーレンスさんがジェフラたんから何かを受け取ってましたよね?

何だったんですか?」


「バキバキバキキキキキキ!!バッタン!」


木の倒れる音が聞こえ始めた。

まずいな、俺も一本くらいは木を倒しておきたい。

でも 困ったぞ、どうすれば倒せるんだろう??よし 戻って頑張ってみるか。


「ジェフラがくれたのはお弁当だよ! よくわからないけどお弁当をくれたんだ じゃぁな また後で!」

「・・・・そう・・なんだぁ・・」



・・・・・一方村では 朝のお勤め終えたセレネとジェフラの邸宅に来ていた。


「ねえ セレネぇ~」

「何よ ジェフラ?」

「今度のお弁当大会が終わったら また村の娯楽がなくなっちゃうわね」


「そうね「死出のネックレス」はあなたのものになるんじゃないかしら?」


「連勝してるしそうなるでしょうね。それでね 次の勝負がしたいの?」

「じゃぁ 格闘技にしましょうよ。私は右手一本だけで戦うわ」


「しないわよ!!バカじゃないの?

仮に小人を助っ人に出来る力があったとしてもごめんだわ。

そうじゃないのよ。得意なことで勝負してもつまらないじゃない?

だから、例えばオーレンス!!」

「え?!」


早朝、セレネがオーレンスにお弁当を渡していたことを見ていたジェフラは

お弁当大会が終了した次の日からはどちらがオーレンスに

お弁当を食べてもらえるかを勝負しようと話を持ち掛けてきた。

セレネはもちろん断ったけど、

もしセレネがお弁当を渡してしまえば、その日から

二人の勝負が自動的にスタートしてしまうのだった。


「さーて、そろそろ 入りましょうよ」

「あなたホントにお風呂が好きね」

「二回は入るわよ。朝の踊りのお勤めで汗だくなのよ」


「背中、洗ってあげるわ

ねえ。ジェフラは平均的な体系なのにどうしてモテるのか不思議なのよねぇ?それぇぇ!」


「きゃーー これは背中じゃないわそれにね。

もう~、体は元町娘なんだから平均的なのは当たり前よ 

それよりセレネ・・これってね。揉んでも大きくはならないらしいわよ」


「へぇ~ さすが「療養所のジェフラちゃん」ね」

「そんな治療しないわよ!ふふふ・・

でもあなたのお母さんなら薬、造れそうよね?今度聞いてみてよ。。。」

「必要ないわ、私が作ってあげましょうか?」

「イヤよ! リングウェイトで下に引っ張るつもりでしょ?」

「さすがジェフラ・・天才ね。実は携帯用も造ってみたの。

それで、こないだオーレンスが実験に付き合ってくれたわ」

「ねえ セレネ。あなたたちはどうして 仲がいいのかしら?わからないわ・・」

・・・・・


朝いちばん最初に伐り始めた木のところへ戻ってきたものの 

同じようなことを繰り返しているだけでちっとも進みそうにない

困っていると戦士様がやってきた。木の斬り方でも教えてくれるのか?

そう思ったけど逆だった。

「お前は才能がないようだ。オノの才能がないなら剣の才能もないだろう。期待していたのに失望した残念だ」

とそんな冷たい言葉を放って、俺の肩に同情するよとばかりに手を乗せてきた。

そして 戦士様の香水なのか、焦げ臭い匂いが俺を包んだ。


「何ともないのか?」


「何がですか?マクア様?」そりゃ ショックは受けているけど。

「いや 何でもないさ、頑張りなさい」

何ともないのか?と言い残すと戦士マクアは ジェフラに惚れた男のところへ行ってしまった。

ああ とうとう戦士様にも見放されてしまったな。

期待を裏切るというのは中々辛いものがある・・。


俺は手に書いた汗をぬぐおうとポケットに手を入れた。

するとポケットの中にいつの間にか封筒が入っているぞ!

しかも 魔方陣の模様の封筒だった。


「もしかしてラブレターじゃないでチュか?」

「羨ましいゲロなぁ~ シクシク」


そうだ。 今朝は村の入り口でセレネと会ったな。

セレネかぁ~照れるじゃないか。

でも 他にはジェフラって可能性もあるのか?

セレネよりも渡しやすい状況だったな。

いやいや ないだろう。。ないだろうけど。。だったらすごいよな。

気持ちに答えられるかどうかは別として、

ドキドキしてきたぞ!!


俺は封筒を破ると勢いよく手を入れてみた。

「グチャ・・」ポケットの中に気持ちの悪い触感があった。

手を出して臭いをかいでみると焦げ臭い・・

これは 手紙じゃない、そして引き出してみると。。一欠片の腐った玉ねぎが入っていた。

嫌がらせだよなコレ!!


「でチュー でチュー」だけど

サブロウたちは俺を心配する風でもなく、腐った玉ねぎに興奮しているようだ。

ああ お前たちの好物だったな。

ほ~ら たんとお食べ。

「モグモグ ムシャムシャ・・・」元気よく食べているニーマンたちを見ていると

俺も元気が出てくる。

セレネじゃないのか~ 残念だな。


それにしてもさ、一本くらい切れないだろうか?

「オマエ オノのフリカタ チガウ」

コルビンの声がした。

そして コルビンの説明を聞いてゴルフのスイングのようにオノを打ち付けてみると

コツン!コツン!と木を打ち付ける音が変わった。

そして・・・

「バキバキバキキキキキキ!!バッタン!」


やったぞ!俺にも木を倒すことが出来た。

「オマエ フリながらオノ 覚えタ エライ」

「よかったゲロ。ゲロロ シクシク」

「さすがオーレンス、フロンを使わずによく最後まで、できましたでチュ」

ホントは切り倒す方法は他にもあったのかもしれないけど、

自分の力で倒せてよかった。みんなもありがとう。

ちょうど 木を伐り倒せた頃にスーちゃんが門番のガネルと現れた。


「みんなー 休憩にしましょう~」


みんながスーちゃんのところへゾロゾロと集まって行って、

スーちゃんがみんなに炒りたてのココルカを振舞っていた。


「はい オーレンス。これがココルカよ、熱いからこぼしちゃダメなのよ」

「これが ココルカか~」


甘そうな砂糖のお菓子一個とココルカを受け取った。

早速 ココルカを飲んでみた。これは・・・

香ばしい香りがアップルパイを連想せる飲み物だ。

けど 他には味も何もないというかホップのような苦みだけが残るな。

それでか。そこでさっきもらった 砂糖菓子を食べるんだな。

砂糖菓子と交互に食べ、飲みするとこれは・・うまい!!

ココルカは砂糖菓子とセットになって初めて完成するようだ。


「どうでチュか? コーヒーの代わりになる飲み物でチュか?」


これは・・・コーヒーの代わりには・・なれないな・・。

ココルカはココルカで 紅茶に近いと思った。

「次があるゲロ。シクシク」


でも ココルカはそれはそれで十分に美味しかったし、

スーちゃんに改めてお礼をいうとスーちゃんは将来、

お母さんみたいになるのが夢らしくて

素敵なお嫁さんになりたくてココルカを頑張って炒ったと言っていた。

「きっと いいお嫁さんになれるよ」と言うと

「今度奥さんとココルカを飲みにいらっしゃいよ」とおままごとのお誘いを受けた。



「おーい!」

「おーーい 確りしろ!」

「これはいかんな。私が村まで送ってやろう」


割腹のいい男がひどく落ち込んでいるようだったから声を掛けたらいきなり倒れたらしい。

戦士マクアも近くにいたので 急いでトカゲに乗せて村へ向かったのだとか。

大丈夫か?村に帰ったらあの男はジェフラに嫌われてしまいそうだな。

ショックで寝込まなければいいけど。


「オーレンス、何かおかしくないでチュか?今朝も倒れた人がいたでチュよ」

そう言えばショックで倒れた人がいたな。

帰ったら療養所に様子を見に行ってみるか。

その後は何事もなかったように木こりの仕事が再開されて待ちに待ったお昼になった。


俺は切り株に座ってセレネが用意してくれたお弁当を膝の上に広げた。

「わー凄い。ウサギちゃん弁当じゃないか?」

セレネのお母さんが得意そうな料理がウサギの形に並べ付けてあった。

お母さんが作ったって言ってたけど、お母さんがこれほどなら

きっとセレネだって料理が得意なんだろうな。

「美味しそうでしゅ」

「オレ 唐揚げでイイ」

「ドームの中に何か入れてくれゲロ」


お弁当をいくつか入れてみた。

唐揚げは小さくなってドームの中に吸い込まれていく、

ログハウスの前に落ちてきた唐揚げに喜んで飛び跳ねるニーマンたちは

ジャンプしてひとしきりの喜びを伝えるとムシャムシャと食べ始めた。

なんか 育成ゲームだな。ジェフラのお弁当もドームの中へ入れてやった。


さてさて 食事も終わったことだし夕方までにもう一本くらい倒せるか挑戦してみるかな。

「がんばるでチュ オーレンス!」

「手伝ってほしくなったらいつでも言うゲロゲロ」

「オマエ ならデキル」

ココルカも美味しかったしニーマンたちにも励まされて再びオノを振るって

「コンコン」と木を叩いていると、男の叫び声が聞こえてきた。


「大変だぁ!」

スーちゃんと後片付けに帰ったはずの門番のガネルが

血相を変えて小屋から帰ってきたのだった。

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