第10話 お弁当の思惑

おはよう!

ドームの中を覗き込むと ニーマンたちが手を振っていた。

ドームには前にはなかった木製のテーブルとイスが追加されていたけど

どうしたんだろう?するとコルビンが自慢げに話してきた。

「オレ 作った ガハハハッ」

コルビンはそんなこともできるのか、器用な奴だなと褒めてやると喜んでいる様子だった。


部屋の布団を整えて顔を洗う水を汲みに井戸を目指すと

途中でジャンパの像と、いかにも賢者という感じのローブを着た男と剣を携えた剣士様に

村長とその娘。そして セレネの母のサウレがいた。

あれが賢者スデーモと戦士マクアか、何を話しているんだ?

聞き耳を立てようと思ったけど声のトーンは大きくて

「素晴らしい石像を自分の屋敷に飾りたい」

なんて熱弁が聞こえてくる。こんなデカい石像なのにフィギア感覚なのか??

運ぶの大変そうだけど、それでもホレちゃったら関係ないのか?金持ちはみんなそうなのか。


だけど サウレが村長と賢者スデーモとの話が面白くないように頭痛がしてそうな

顔に変わっていく

「この石像のジャンバル様は多くの村人を助けてきたのですよ。

ご神体はそんな軽々しく扱ってはいけません。」

サウレが杖の先を松明のように燃やした。 


賢者様はニヤニヤと涼しそうな笑みを浮かべて笑っていたが、

「魔女の魔法はウソをつく、じゃからウソのネタが減っては

説得力がなくなってしまうというわけじゃ、ひゃっひゃひゃ」

と賢者スデーモはニタニタと口角を引き上げた。


「私は元魔女です。ですが力をごり押しすることしか追求できない

賢者に侮辱されるのは心外ですね。やはり決着を・・」

サウレが杖を持ち上げた。そのとき

「ちなみに、ここに戦士がいることを忘れていないか?

お前が物語を語り出すよりも、俺の剣は早いぞ」

と戦士マクアが二人の間に割って入った。


戦いが始まりそうな予感がした。


「あら! おはよう オーレンス」

村長の娘ジェフラが俺を見つけて手を振ってこちらにかけてきた。

みんなも 緊張が解けて視線が俺のほうを向いた。

それにしても 朝からなんかセクシーな声色を出す娘だ。

なんか 朝からこんな色っぽい声を出されたら

戦う意識も薄れちゃうよね。

「恋する乙女でチュ」

でも、昨日の宴で聞いた話だと。

なんでも村長の娘が可愛いからって

この村に移住した旅人もいるらしいから決して侮れないけどな。


「私ね、戦士様が好き、好き、大好き!、

でもね、実はぁ、あなたにも興味があるのよ。危ういところなの。

セレネの事が好きだったらどうしよう!って思っちゃうの?だから無理ね。

残念だなぁ~、でも 私のお弁当は沢山用意してあるから食べてみてね。

じゃぁバイバイ」


バイバイだってさ。小悪魔チックな娘だ。

「ジェフラは魔女の才能がありそうチュね」

「ジェフラの不思議の国に行きたくなるゲロゲロ」

ああ 異世界で最初に出会ったのがジェフラだったら不思議の国に迷い込んでいたかもな。


さてと それより大変なのはジャンバルさまだ。

ジャンバルの像を見るとデカい顔のジャンバル様は 

あいきょうのある顔で笑っているように見えた。

「おはよう ジャンバル。お前、危ないかもしれないぞ」

でも ジャンバルは余裕の笑顔を返してきた。



井戸に付くと 水を汲みに来ている人たちもいないしガラガラだった。

井戸には鳥よけだろうか?

水晶玉が取り付けられていてファンタジーな感じがあって

不思議な井戸だな。


俺はバケツの付いたロープを下ろして水を汲んだ。

「コックン バッシャン!」 バケツが井戸の底に落ちるとエコーがかかっていい音がする。

これから俺は ローテクだけどのどかでゆったりとした生活を送っていくんだなぁ。

死神には「子供もできればなおよろしい」と言われたけど

前にいた世界は欲望を刺激することに価値を見出すような世界観だったしな。

年配の人は昔、変なウィルスが流行ったときは

その経済体質のせいで生活できない人がいっぱい出たんだって言ってたけど

今の時代だって・・・だから俺は死神に・・ああ いいや違うな 

俺は異世界に来てるんだ。

せっかくやり直せたんだから、今度は自分の気持ちが満たされることを基準にして生きてみたい。

魔法のあるこの世界ならそんな生き方も、きっと可能だろう。

やるぞ! おー!


小さく拳を上げて井戸の水を汲んでいると また可愛い声色が聞こえてきた。

村長とジェフラだ。

「オーレンスぅ~ え!あなた! あなたは、なにをやってるの?」


井戸でバケツを使っている俺を見たジェフラは驚いているようだ。

「あれあれ??あなた! 

ひどい二日酔いで!って訳じゃなさそうだし、

一人で草原を歩き回れるような凄腕かと思ってたのに、もしかして井戸の水もくめないの?」

ジェフラは井戸の横にある鳥よけの水晶玉に手を当てた。

すると 井戸の横の筒から水が水道水のようにドバドバと流れ出てきた。

これは魔道具だったのか。


どうりで 井戸に人が並んでいないわけだ。

「あなた!木こりに行くらしいわね。今日は戦士様だけが同行するらしいわよ。

戦士マクア様はお優しいのよ、羨ましいわ。」きつい口調でそう言い放ったかと思うと

村長のお父さんに甘えた声を出して邸宅のほうへ歩いて帰ってしまった。


それよりも 井戸の水晶玉は魔道具だったのか?

賢者様にサーチをかけてもらうわけには行かないけど

これなら俺の魔力が調べられるかもしれない。

俺もさっそく試してみよう。

「うりゃぁぁぁ!!」 

しかし 装置は作動しない。

「井戸を破壊するくらいの気持ちでちゃってやる!」

「うりゃぁぁぁ!!」

しかし 装置は作動しなかった・・。

「ああ なんか出てきた 3滴くらい」

力んだせいでトイレに行きたくなったくらいだ。

やっぱり誰かに魔法を習わなかったらそもそも話にならないな。


朝食が終わって村の入り口は広場になっているので

体操とかお弁当大会とか色々とやっているらしいけど

俺も大工の統領のところへ向かうために入口に向かっていた。

途中に羊や牛の群れが「メェー・モー」と

こちらへ寄ってくる。「モー・メェーメェー」俺は囲まれて身動きが取れなくなった。

すると 大きな大剣を背中に下げた大男が駆け寄って来て、ヤギや牛をどかせてくれた。

あれはもしかして?

「昨日は助かった、オーレンス、俺が瀕死のところを助けてくれたんだってな」

話しかけてきたのは羊飼いのヨーゼンだ。

瀕死だったのに1日で回復したのか?

まだ アザはの後が痛々しいけどファンタジーを通り越した回復力だわ。


「ところでオーレンスは、動物に好かれるようだ、

こんなに動物に好かれるところを見ると お前は獣使いの才能があるのかもしれない。

今度 羊飼いの仕事を手伝ってみないか?」


これはスカウトか?

「獣使い」はヨーゼンから見たら憧れのスキルになるだろうけど「獣使い」よりも

俺は魔法剣!でスパスパ!出来るようになりたいな。

まあ 仕事のほうは都合が会えば手伝いたいと言っておいた。

「そうだ 忘れるところだったぜ」といってヨーゼンは羊の毛のマユ玉を数個くれた。

俺は編み物はできないけど・・と思っているとサブロウが「お宝でチュ」というので

とーむの中に入れてやった。

サブロウは早速ログハウスの中に持ち込んだけど 

このハウスの中って今はどんなことになっているんだろう??覗いてみたい・・。


色々あったので少し遅れたけど村の入り口までたどり着いた。

あれは?村の入り口に行くとセレネの声が聞こえてセレネと一緒に踊る人たちがいた。

準備体操なのかな?

「いち ニ いち ニ そ~れ そ~れ♪ リングウェイトを重くしたい人はいつでも言ってね!

じゃぁ 次行ってみよう。おう♪」

ほほほほ。セレネは異世界エアロビの先生やってたのか?

それにしても ほほほほっという言葉しか思いつかない。

ワイルドな布の服というか体操着に近いかもな。


長いテーブルのほうを見ると村娘たちがお弁当を並べていた。

大きなお弁当一つ置いてあるけど 残りはコンビニのおにぎりのように小さいお弁当だな。

ジェフラはヒロインのような顔をして村娘たちと話をしていた。


そう言えば 俺の昼はどうしようかな?

村に来たばかりでお弁当なんて用意できなかったぞ。

一つ売ってもらえないか聞いてみるか。

そう考えてポケットの中から銀貨を探していると、

邸宅のほうから大トカゲにまたがった戦士様がやってきた。

戦士様はお弁当の並んでいるテーブルをぐるりと回って一つのお弁当を選んだ。

美味しそうなお肉の入ったお弁当だった。


「娘たちよ! 優勝したものにはこの「死出のネックレス」をやろう。

美しいだろう。このネックレスはこの世の物ではないと言われていて街の道具やへ持っていけば

金貨100枚はくだらぬ価値がつくだろう。

では 今日もお弁当を選ばせてもらうぞ」

戦士マウアは ゆっくりと長いテーブルを行ったり来たりしてお弁当を選んでいる。

「ほほぉ これはクカ豚の肉じゃないか?

私の好物なんだ。どうしてわかったんだ?今日はこれにしよう・・・」


選ばれた瞬間、村長の娘のジェフラは胸元で両手を組んで大きな息を吸い、

ほかの娘たちは膨らませた肺の息をすべて吐き出してうつむいていた。

うつむいただけならいいけど、数人の女性が倒れてしまった。

頑張って作ったのに報われなかったのかな?

それにしても数人が同時に倒れるなんてどれだけ戦士様に入れ込んでいるんだ?



「美味しそうな匂いがするゲロ!」ああ 美味しそうだな。

羨ましいぜ、戦士様。

「我慢するでチュ」

大工たちを見ても羨ましそうな顔をしていて、きっと 俺も同じ顔になっていると思う。



そんなときセレネが俺を見つけてやってきた。


「おはようセレネ!」

「おはよう、オーレンス。 あなた、、やっぱりね。

村に来たばかりだからお弁当を用意できないと思ったのよ。

もしかして買うの?

言っておくけど「村娘のお弁当」は結構高いわよ。 

でも すぐに売り切れちゃうんだけどね。

卵と大豆が食べれるわよ。はい、これあげるわ。

それじゃ、私は村の人たちに踊りを教える使命に戻るわね。

ひゃっほーーい!みんな 今 戻るねぇ!」


セレネは 俺のためにお弁当を用意してくれたのか?

「よかったでチュね」

「ありがとう セレネ」


だけど 「ちょっと待ちなさいよ セレネ!」とジェフラがセレネを呼び止めるて

優越感に浸る顔を浮かべながら、セレネの前に歩いてきた。

「今日も私のお弁当が選ばれたのよ。今日も私の勝みたいね。」

「別にいいわよ。 私のお弁当はお母さんが作っているのは知ってるでしょ?わたし、もう行くから」


セレネは手に持っていたお弁当の袋を俺に握らせると踊りを放り出して

「ウオーターバルーン」と唱えて水の玉にまたがって駆けだした。

「ボヨン!!」と胸がはじけ揺れるくらいのスピードを出していってしまった。

「ふふふ」とジェフラは嬉しそうに笑いながらセレネが見えなくなるまで見送っていた。 

なんであんなに勝ち誇った顔をするんだろうな?

村娘に町娘が勝ったってしょうがない気がするけど。

「ライバルにされてもセレネじゃ、可哀そうゲロゲロ」


「オーレンス!! はい、私のお弁当もあげるわぁ。お弁当大会も次回で終わりなのよ。

特別よ。じゃぁ バイバイ」

ええ 二つもらっても食べれないけどな。

「あっ、ありがとう・・」


それよりも さっき倒れた人が起き上がる気配がないのだけど大丈夫なのかな?

「これは 大変だ。私が療養所まで運んでやろう」

村の人と戦士様が村娘を療養所へ運んでいった。お姫様抱っこをする戦士様は

カッコよく見えるけど だけど後ろ姿が勇者って感じじゃなくて逆の存在に見えるんだよな。

「臭いゲロゲロ」ああ 戦士マクアはほんとゲロゲロだな。

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