グッド!スメル「過労が溜まっていたらしく死神が現れたけど、昔何気なく助けた動物に恩返しされて異世界で暮らすことになりました」

もるっさん

第1話 異世界へようこそ【エピローグ:死神の駄菓子屋】

・・・・・

さてさて 久しぶりにお香に火をともしてみようかのう。

雑貨と駄菓子の置かれたお店で、おばあさんは 中指一つ分くらいの短い、

1っ本のお香に火を灯しスタンドに刺した。


うひゃひゃひゃひゃひゃ

さて誰が来るのじゃろう?

性格はどんなものでもいい。ただ・・ただ 根の優しい人間がいいのう。

お前たちもそう思うじゃろ?

お香の灰がポタリと落ちた

・・・・・



俺の名前はオーレンス。本名はあるけどゲームではオーレンスと名乗っている。

バリバリのコーヒー派の普通の社会人だけど、今日も仕事が終わっていつもの帰り道の路地を歩いていた。

バブルという時代の頃は仕事終わりは華やかにお酒を飲んで過ごす時間が待っていたのかもしれないけど、

今の時代の俺たちは別に飲みに行く趣味があるわけでもないし、

テラスでお酒を飲む観光客や外国人を横目に見ながら街路時を抜け、

電子マネーの時代なのにもかかわらず、ポケットに手を入れて財布の厚みを確かめて

帰りにソーセージでも買って帰ろうと考えながら帰路につく。

そんな日常を送っていた。

そう 送っていたはずなんだけど今日の帰り道はいつもとは違っていた。

お香の灰がポタリと落ちた。ひっひひひ


「あれ?おかしいな。いつも歩いている道のはずなのに間違えたかな?こんなところに駄菓子屋さんがあるなんて」


いつもの道路沿いの壁が突然なくなっている。

代わりに古びた駄菓子屋さん兼、雑貨屋さんがあって見慣れない商品が並んでいた。

あれ? この駄菓子、数年前に発売が終了したカルカルじゃないか。

この店ヤバそうだ。

どのくらい消費期限が過ぎているのか気になるな。

お客のフリをして消費期限をこっそり見てると・・信じられない日付だった。

え!半年先まで食べられるぞ。

そんな・・確かにファンに惜しまれながら販売が終了したはずなのになぜだ。

最近流行りの外国産のそっくりなアレなのか?

店の中を覗き込むと古臭いお香立てに半分くらい燃え尽きたお香と

ローブを着たお婆さんがいる。

両手にスノードームを握って眺めているようだけど

ドームの中にはに雪が降っているように見えた。

ああ 懐かしいな。

3Dビジョンドームか、球体版のテレビだ!だげど、おっと!いけない。

他人様の思い出を覗き込んじゃいけないな。

きっと昔にドローンで撮影したビジョンをアルバムのように眺めて思い出に浸っているのだろう。

あれ?でも それにしては様子がおかしい。

フリーズしたように固まっている。息をしていないんじゃないか?


おばあさん。おばーさん!

話を聞いてみようと 話しかけたのだが返事がない。

お香の灰がポタリと落ちた。


「おばあさん!!」


声をかけた。


一向に反応のないおばあさんが心配になって 肩をさすろうと手を伸ばしたら

触った瞬間、おばあさんは 俺の姿に変わった。

もう一人の俺がいる。

お婆さんは消えて、代わりに目の前にはやつれた姿の俺がいた。

俺とお婆さんが入れ替わった?

いいや 俺はここにいるし、目の前にはやつれているが俺がいる。どうなっているんだ?


すると 声が聞こえて後ろを振り返るとお婆さんがいた。

高笑いをしたお婆さんは、しわがれたゆっくりとした口調で話しかけてきた。

「ふふふはぁぁぁ↑↑。お前さんは、人の心配の出来るいい人間なのに、、

どうして、そんなにつらい人生を生きてしまったのじゃ?」


そんなことを言われて言い返してやろうと思ったけど。

でも 口を開こうとしても開かないし体も動かない。

何だこの状況? わからない状態なのに逆に質問されたぞ。



「ふむ 答えられぬか」

おばあさんは そう言うと背中に手をやってモゾモゾとし始めた。

かゆいのだろうか?


モゾモゾ 


もぞもぞ キラン!!


おばあさんは背中からキラキラと光る手鎌を取り出した。


ちょっ! まってくれ。

まずい まずいぞ 殺人鬼 ばばあだ。 

鬼ばばあって物語に出てくるけど これが実写版の鬼ばばだ。

現在の鬼ばばあは 駄菓子屋をやってるぞ!

クッ・・

逃げたいけれど体が動かない・・金縛り?いいや!ばばあか?

ばばあ、お前の力なのか!!

もがいても体が動かない。 目に入ってくるのは後3cmほどで燃え尽きようとしている

お香の光と灰だ。


おばあさんは悲しい声で語り出した。


「実はな、お前は健闘むなしく死んだのじゃよ。さあ お前はどんな人生じゃったか振り返るといい」


死んだ?

けど、まってくれ、怖くてめちゃめちゃ 生きている実感が湧いているんですけど!

汗とか出てるし、めちゃめちゃ毛穴が開いているんですけど。

ホントに死んだのか?


「ざざざざざざざざ」

外は急なスコールになってトタン造りの雑貨屋さんの屋根は大きな音を立てだした。

・・。

おばあさんはテニスでもするかのように鎌を素振りをすると 空間が避けて俺はどこかに飛ばされた。


「ここは お前が生まれる前の過去の世界じゃよ」


最初は農村のような場所に飛ばされた。

過去と言ってもずっと昔の時代のようだ。

そこには小さな村があって、村の人たちが焚火を囲んで食事をしているようだった。

貧相なものを食べているのに、みんな満たされているようだった。

そして 驚いたことにその満たされている人の中に俺のそっくりさんがいた。

そっくりさんは 焚火に近づいてきたカエルを見つけるとしばらく眺めて、

近寄りすぎてしまったカエルを火傷をしないようにと素早く捕まえて草むらへ返してあげるようなそんな優しい人だった。


「さあ 次へいくぞ」

その次も、その次も、おばあさんの鎌によって過去に飛ばされた。

徐々に現代に近づいてワープしているけど そのすべてに俺のそっくりさんが生活していた。

そして、そっくりさんはアリ・トンボ・クワガタ・セミ・鳥と色々な動物の命を助けていた。 


最後に駅のベンチに座る俺のそっくりさんがいたけど。

そこには今までとは真逆の疲労困憊の顔のそっくりさんがいた。

辛そうで目の下にクマがあった。

俺よりひどいな。。でも そっくりさんだけに可哀そうだ・・・。

そっくりさんは、迷い込んで今にも踏まれそうなアリを手に乗せると 

外へ逃がしてあげた。

何やら、、満足そうな顔をしている。

アリを助けてそんなに嬉しいはずないだろう、、そんな顔をして自分の何かをアリに重ねて託したのだろうか??

けど まてよ・・

これって覚えがあるぞ。 どこかで。 もしかして・・。


お婆さんがしわがれた声で囁いた。

「それは 昨日のお前じゃよ」っと。

「いや さっきは死んだと言ってしまったが、死んだというのはおかしいか、、

お前は、この世の経済に殺されたのじゃよ、

どこにも逃げ場のない人生で さぞ 辛かったじゃろう。。」


逃げ場のない人生と言われて 涙がでた。

おかしいなー。 何で涙が出てくるんだ?全く分からない。


「ざざざざざざざざ、バチバチバチバチ」

雨はさらに強さを増して 強い雨粒を屋根に叩きつけている。

おばあさんは 時間をかけて俺に状況を説明してくれた。


おばあさんは 死神だったんだ。


お香の灰がポタリとは落ちなかった。。 残りは1cmくらいだけど

スタンドに立てられたお香は 根元まで燃え尽きることは、、なく、

そのまま静かにたたずんでいた。

なんだか このお香は俺の寿命みたいだな。

さて、死んでしまった事は理解できた。

けど死神が連れていく場所ってどこだろう?

宗教にはうとかったので、今一つ、わからない。


「受け入れてもらえたようじゃな、ではそろそろ、行くぞ」


俺から羽が生えてきた。

天国へ飛び立つのだろうか?

ただ。。だけど納得できない気持ちが込み上がってくる。

不完全燃焼のお香みたいな人生が悔しい!!

後悔するほどの人生の選択肢はなかった気がするけど、死んでいるのに涙が出てくるや。


「いいえ!理解できません。こんな人生の終わり方に納得できません。チャンスをください」


口から意外な言葉が出てきた。

でも スッキリした気持ちになって心臓が心地のいい鼓動をうち始めた。

血流が体をめぐって身体が温かくなる。

今更だけど これが本当の俺の気持ちだったのか?

やっと、気づけた。


お香の灰がポタリと落ちた。そしてお香の先端が赤く光り出した。


「面白い。お前のようにあがくヤツがおるからこの仕事は辞められぬのじゃ。

よかろうチャンスをやる、、、さあ チャンスを与えたぞ」


俺の羽は消えて囚人や奴隷のような姿になった。

羽が消えたと言うことはチャンスと引き換えに羽を失ったと言うことか。

それにしても チャンスを与えてもらったらしいけど、何も言われない。

お題がないけど、どうしろというのだろう?


おばあさんは ホレ ホレとせかすような目で俺を見ていた。

そして お香を指さした。

まずい、これ以上の時間が消費されるのはまずい気がする。 

もう2分もないだろう、チャンスはすでに始まっているんだ。


俺は 店の中を見渡した。

駄菓子に雑貨のアンティーク。

なにか? なにかのヒントはないのか?


あれ? アイツは!カエル?


「デン!!!!」


それは 駄菓子の宝くじの箱の上にデン!っと座っているカエルがいる。

このカエルは 俺のそっくりさんが命を助けたカエルじゃないか。

そうだ。見たのは一瞬だったけどあのカエルに違いない。宝くじか。

俺は カエルを信じて宝くじを死神に持っていった。

これで・・どうだ?


「ほうほう ニーマンとはおもしろい。

やはりお前は根の優しい人間のようじゃな、

お前の正解を確かに見せてもらったぞ」とお婆さんは満足そうだ。


「じゃが ここからはお前の運を引き寄せる力が必要じゃ。

さあ 宝くじを引くがいい ひっひっひ・・」


俺は恐る恐る 宝くじの箱に手を入れた。

手に汗を感じる。

指先も棒のように硬くでスマホのガチャをやったときのようだ。

課金してガチャを100回回すような奴が運頼みをしているなんて皮肉なものだ。

神様、仏様、とお願いしたいけど俺は無宗教なのでこんな時頼んだりはしない。

よし!やるぞ


ガラガラと箱の中のクジを回す。

「ガシガシ!!」

ん? 「ぷにぷに」

クジのほかに柔らかい何かが手に当たる

そして 柔らかい何かに捕まれたぞ!

俺は手を持ち上げた。

すると クジの箱からはハムスターが出てきた。


あ!!

俺が昔 飼っていたハムスタのサブロウじゃないか。

サブロウは こちらを見て首を上下に振ると 口の中からクジを3枚取り出して渡してきた。


死神はニヤリとすると「これでいいのか?」と聞いてきた。


いいも何も3枚も引いたけど 逆にいいのか?と聞きたくなった。

でも そんなことは気にしていない様子だし聞いてダメだと言われたら元も子もない!

「それでいい」というと やっぱり何事もなかったかのように俺のほうにクジを向けて開封し始めた。


一枚目は、、、文字が・・文字がない。。。


次のクジも・・文字がない。


そして最後のクジは・・文字がない・・けど

どこからともなく 一匹の虫が飛んできてお婆さんが持っているクジを箱の中に落としてしまった。

お婆さんは眼球が飛び出そうになった顔を近づけて「キサマ!!」と叫んだけど

でも「仕方がない・・」と言って新しいくじを箱から引いて開いて見せた。

そのクジに書かれていたのは。

「あ・た・り」 


あたりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

やったぞ! 俺はこぶしを握った。

ありがとう サブロウ・カエルさん・虫さん!!


でも あたりを見渡してもサブロウたちの姿はすでになくて、

雑貨のカエルとハムスターの置物が置いてあった。

天国に帰ったのだろうか?


死神は語り出す。

「お前は愛されておるのう。

さてお前がこれから生きていく場所は異世界じゃ。

じゃが、これから行く異世界はこの世界よりもよっぽど過酷な世界じゃ、

今のお前の力ではちーとばかし足りぬようじゃ。

ほれ 特別にお前の力を示してやろう」


死神は さっきハズレた2枚の白紙の紙を俺の前にかざした。

すると クジに文字が現れた。


「一枚は新しくお前に宿った力「ニーマン」」

「一枚はこのアイテムの「世界樹のドーム」じゃ」



死神のお婆さんに「ニーマン」について説明をしてもらった。

「説明してやろう、ひっひっひ。過去からゴーレムを造り出す能力じゃ。

お前はすでに使っていたから説明はいらぬじゃろう。

おや?もっと 知りたそうな顔をしておるな。じゃがこれで終わりじゃ。

さっきのお返しじゃよ、ざまーみろ ひっひっひ」

え!俺はすでに使っていたのか? そして説明は本当にこれで終わりだった。


※ニーマン:術者が意識をしない限りは、人は見ることもできないし触った感触すらもないゴーレム。

ゴーレムは様々な特殊能力を持っていて術者を助けてくれる。

そしてこれはサブロウたちが恩返しとしてオーレンスに与えてくれた力だった。


さらに もう一つ、死神のお婆さんが持っていた3Dビジョンドームのような球体のドーム。

玉の中にはログハウスの模型と木が生えている。

こんな別荘があったら牛でも飼ってチーズでも作りながらのどかに暮らしてみたいものだ。

※ ニーマンの家になるドーム。世界樹の木が植えられており、

世界樹にはいつか奇跡の実がなる。


「お前には新しい使命を与えねばならぬな。そうじゃのぅ~

ニーマンを育て行けば、あ奴の残骸を片付けることになるな。

あ奴もそろそろ去ってもよいころじゃろう・・。

よし、ニーマンを育てるのじゃ。それが一つ目じゃ。

そして 二つ目は異世界では自分をもっと大切にすることじゃ。

この世界で出来なかったことをするがいい、子供が作れるならばなおよろしい。

つまりじゃ。将来、ワシを忙しいくらい働かせてくれたら嬉しいのぉ~。

さて 準備は整った。では異世界へ送り届けてやろう」


死神は鎌で空間を切り裂くと俺は異世界に吸い込まれた。


「言い忘れておったが、お前の力は魔法ではない、じゃから ニーマンがある程度、育つまでは・・

ニーマンの事は秘密にするのじゃ・・秘密に・・じゃ・じゃ」


「魔法じゃないって何ですか?そもそも 魔法がある世界なんですかぁ?・・・」

死神はうなずきながら笑っていた。


吸い込まれた先に出た異世界の場所は空だった。

足元には奇麗だけど顔がアホな鳥が大きな翼を広げて飛んでいる。

鳥よりも高い所にいるようだけど、お約束というかゆっくりと地面に降下しているようだ。

身体が熱いし血がたぎるというか、自分の体が高揚していることをはっきりと感じる。

やったぞ!俺は 人生をやり直す切符を手に入れた。


ゆっくりと地上に降りていく間に

近くに文明がないのか探してみた。


あった!

遠くに村が見えた。


石の壁に囲まれた村だ・・・ 

西洋風だな。

人はどうだろう?

うごめくものは見えるのだけど 遠すぎて人を見つけることはできなかった。


俺とニーマンとの冒険が始まった。

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