18 産まれた時父親に殺されないように父親に似るってドラマで言ってた。
「ッ!?!?あ゛ああああっ!?!?」
熱い、腕が熱くて堪らない。目から火花が飛び散るほどの痛み。撃たれた、のか‥?誰に?
「影人っ!?無事かっ!」
「っ、父さん!」
右手から聞き覚えのある声がして、俺は恐る恐る声の主へと振り向く。
紺色の作業着に、分厚いベストや肘当てヘルメットで武装した男。一目見てすぐに誰なのか頭が理解した。
父、さん‥?
「動くなっ!それ以上動くと次は足を撃つ。」
俺はその姿を両の目にはっきりと捉えた。俺に銃を構える男。白髪は増えたけど、あの頃と殆ど変わらない。キリッと上がった眉を寄せて、深い黒の両眼が真っ直ぐ俺を見据える。
全く可笑しいものだ。あんなに、恨んでいたはずなのに、その姿を映した途端、涙腺が急激に緩んで涙が滝のように溢れ出た。
父さんだ。本物の父さん‥。伝えないと、伝えないとっ。
母さんが、母さんがっ!!
「か、か、あ、さ!か、か!」
口がうまく回らないっ。痛みとか涙とかで混乱してるんだ。焦るな、ゆっくり伝えれば大丈夫だからっ。きっと分かってくれる!ランクなんて気にしてない今の父さんならきっと!
俺はフラフラと立ち上がり、父さんの方へと歩き出す。
「っ!動くなって言ってるだろ!本当に撃つぞ!?」
撃つ、その言葉に迷いがあるのか、瞳が揺れている。大丈夫だ。何もしなければ父さんは未成年を撃たないはずだ。そういう正義感の強い人だったから。
ゆっくりと、動く方の腕を父さんに伸ばした時だった。
「っ、父さん!!」
ドンッーー
「あ゛ああああああっ!?!?」
左足に激痛が走り、俺はその場で転げ回った。真後ろから大きな発砲音。俺に銃を向ける黒髪に目を見開く。お前っ!?
「、影人!くそ!?動けるか!?っ、お前、足がっ!?」
偽物の名を呼び、俺の横を通り抜ける父さん。伸ばした手が空を切る。黒髪に駆け寄り心配する父の声に心臓が握り潰されそうになった。
「大丈夫だ!それよりもこいつの口をっ!」
「むぐっ!?」
なっ!?
仮面を無理矢理剥がされて、上着だろうか、それを黒髪に口に突っ込まれる。同時に強く押さえつけられ、俺は堪らず呻き声をあげた。だめだ、やめろ。やめてくれ。伝えないといけないんだ。母さんがっ、母さんがっ!!
「こいつの能力は自分の傷を相手に移すことができる!トリガーは口から発する事。それさえ対処すれば、こいつは一般人と変わらないはずだ。」
父さん!俺だ!タマキだって?!気づいてくれ!こっち見ろよ!?少しで良いからっ、話を聞いてくれ頼むっ!!
「っ!?はは、さすがだな!さすが私の息子だ!」
母さんの事っ、伝えないと!母さんずっとあんたを待ってた!たくさん仕事して、あんたが戻ってきてくれるようにって!ずっと父さんを愛してた!そうだっ、最後の手紙っ!あれ渡すから読んでやってくれよ!!頼む‥頼む‥
「こちら日ノ!!影人と合流した!変能持ちの無効化に成功!はは!息子のお手柄だよ。そうだ影人が足を負傷している!至急、救護班を手配してくれ!」
嬉しそうに顔を綻ばせながら無線を使用する父さんと、彼に肩を組まれて恥ずかしそうにそっぽを向く黒髪。俺は虚な目でその光景を見つめていた。
あぁ、なんだよこれ。何見せられてんだよ。どこまで馬鹿にされればいいんだよ。
心は冷え切って、涙だけが地面に流れてゆく。
父さんに殴られたあの日よりも、2人が仲睦まじく歩いていた最悪な後ろ姿よりも、今の方がよっぽど虚しくて、なんだかまた笑いが込み上げてきた。
力を抜いて、俺は無抵抗になる。もう何をする気力も湧かなかった。ただ俺は、もう一生叶うことのない平凡な夢物語と、隣に無惨に転げ落ちた仮面を、ジッと死体の様に眺めた。まるでこの仮面の持ち主の様に静かに静かに。
今だけでいい。一度でいいから。頼むよ。
なぁ‥父さん
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