11 久々に会った友人がイメチェンしてた時、なんて反応したらいいのか一瞬気まずくなる。
◇
『はい!約束の誓い!俺たちは何があってもずーっと!仲間だかんな!』
『ああ!タマキずるい!俺が先にそれしようと思ってたのに!』
『私も!私もする!』
『昨日放送していた果汁レンジャーの真似か‥まあ、仕方ないからのってやるよ。』
立てた小指。ケイ、モモちゃん、ルイの順に三人の小さな小指が絡まる。
『へへ、約束だよーー。』
ランクのない世界で交わした約束。俺の幸せな‥幸せだった頃のーー。
『悪い‥やっぱさ、ランクが違いすぎるんだよーー、』
◇
医者に頭を下げるケイとモモちゃんーー。
その背後には、右足に大きく瓦礫が刺さったルイの姿が見えて、俺は目を疑った。うそ、だろ‥?あれって、俺の足に刺さっていた瓦礫の状態にそっくりだ‥。ドキリと心臓が嫌な音を立てて、俺は急激な不安に苛まれる。
「すみません‥治療の優先順位は法律で定められていますので‥。」
「そんなっ私たち、Aランクですよ!!」
「そう言われましても‥今はその、」
彼らにそう告げる医師。その言葉や態度から、抱いていた違和感が確信へと変わっていく。露骨に【ランク】を無視した医療行為。底辺ランクの俺が治療を最短で受けて、Aランクであるはずのルイ達が蔑ろにされている現状。ルイ達だけじゃない。ここまで来る途中に会った怪我をした人達は、皆んな高ランクに見えた。おかしい。何が起こってるんだ‥?
「っ、お前それでも医者かよッ!?!?ケホっ、ッ」
「だめだよケイっ、もう喋らないでっ傷がっ!」
俺は愕然とその場で動けないまま、涙を流すモモちゃんと、医者に掴みかかるケイを眺めていた。
苦しそうに咳き込むケイ。その喉元から下唇の辺りまで、黒く焼き爛れた跡が広がっていて、声を出しづらそうに咳き込んでいる。心配そうに彼を介抱するモモちゃんの右手も同じように黒く染まっていた。
見覚えのある黒い焼け跡。とてつもない高温で焼かれ皮膚を抉られたようなーー。
ーー天罰だ。
ふとそんな言葉がよぎって、俺はすぐさまブンブンと頭を振り最低な考えを吹き飛ばす。
きっと避難中に怪我をしたんだ。あれだけの被害だ。どんな傷だってありえる。偶然似ていただけだ‥似ていただけ‥
六つ目の扉の先。少年が幼馴染三人のラクガキを、黒く黒く染める光景が脳裏に浮かぶ。
もしかして、あれが原因でルイや他二人が怪我を負ったんじゃ‥。いやいやいやいやっ!そんなわけないっしょ!そんなわけが‥。
ーーいつでも呼んでね。
「‥、」
俺は無意識に震える自分の両の手を眺めていた。
現実を超えた超常現象を、確かにこの目で見たのだ。もし、もしもだ。仮にあの力が‥タケちゃんみたいに、俺の能力なのだとした‥?そしたら俺の世界は‥劇的に変わるんじゃないだろうか?
ランクも、軽蔑も、惨めな思いもしなくて済む‥。描いた夢も、我慢してきたこと全部、叶う世界ーー。
微かな希望が胸に灯る。俺は何年かぶりに口角が上がっていくのを感じた。消えたはずの火が燃え上がるような‥
「根岸環さんっ!?ちょっと!部屋から勝手に出ないでください!安静にしてもらわないと、もしものことがあればっ」
「っ!?」
俺はハッと我にかえって、即座に口元を手で覆う。なに考えてんだよこんな時にっ。馬鹿な事考えんな。俺に‥そんな事できるはずないだろ‥底辺の俺に‥。
それに、もし俺があの三人に怪我を負わせたんだとしたら、それはただの犯罪行為だ。これ以上ランク下げてどうすんだよ。期待するな。いつも期待して傷つくのは自分自身なんだから。
俺に必死で駆け寄ってくる看護師さん。遠くの方から大きな声で叫ばれた俺の名は、酷くその場に響き渡った。
「‥、タマキ?」
「へ‥タマキ、くん‥?」
びくりと震える体。それは最悪の事態だった。背後から聞こえる幼馴染二人の声。
声が出ない。短い廊下の端と端。ケイと目が合い、俺は慌てて視線を逸らす。間近な距離でもないのに、震えが止まらない。見つかってしまった。見られてしまった。
「タマキ、だよな‥?」
何年ぶりだろうか‥中学を卒業してから、いや、もっと前から彼らとは会っていない。惨めに堕ちた自分の姿。先ほどまで抱いていた少しばかりの希望も、一瞬で消え去っていく。ここに存在している事自体が恥ずかしくなって俺は俯いた。なんて言われるだろうか?久しぶり?それとも、変わりない?‥髪、とか、ちゃんと‥美容室で切っとけばよかった‥ちっちゃなプライドだけど少しだけでもよく見せられるのなら、こんな風に鍵合わせるんなら、もう少しだけ‥努力したのに‥
「っ、それ‥包帯‥?ねえ、なんで、タマキくん‥治療、受けてるの‥?」
ふと長く伸びた前髪の間から、モモちゃんがありえないといった表情で俺の足の包帯を指差すのが見える。俺は想定外の言葉に目を見張った。そっ、か‥そう、だよな。今は仲良くこんにちはしてる場合じゃないだろう‥ルイの足があんな状態なんだぞ。‥何、呑気な事、考えてんだよ。
もしかしたらと、そんな考えを抱いていた自分に酷く嫌悪した。馬鹿みてえだ。
「‥、」
俺はモモちゃんの問いに答えられないでいた。そんなの俺だって知らない。意識が戻ってまだ数十分も経っていないのだから。
黙って動けない俺の周りを、ビビビと、腰丈ぐらいのオレンジ色のロボットがぐるぐると囲みだす。救命ロボだーー。
緊急時、駆け込んでくる怪我人や病人を即座にスキャンしてランクと状態異常を調べ、治療優先度を測るロボット。チェックロボットとも呼ばれている。ケイ達がいる廊下の先は開けていて、きっと出入り口に近いのだろう。救命ロボは出入り口付近が行動範囲だから。俺は治療済みだし、こいつもすぐに別の場所に移動するはずだと、気にせずこの状況をどうやってやり過ごすかに集中する。
目的を思い出せ根岸 環!俺は骸骨さんを探さないといけないんだ。俺なんかを助けてくれた恩人。何の役にも立たない俺なんかを‥。お礼だって、まだ言ってないじゃないか‥。なんでもいい、適当に会話を終わらせて、それでっ
「っお前ッ」
視線をロボットからケイ達に戻した刹那の事だった、ドスドスとこちらに近づいてくるケイ。
急なことに俺は怯む。な、なんだよ。なんで近づいてくるんだよっ。
「なんでッ‥
なんでお前がっ、Sランクなんだよッ」
「ぐっ‥っ!?」
急に胸ぐらを掴まれて、背後の壁に打ちつけられる。背中の痛みと共に、ケイの憎悪のこもった視線が俺を睨みつけていて、俺は訳もわからず混乱した。
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