12 世渡りうまいやつこそ、結構腹の中真っ黒だったりする。
背中が痛い。強く掴まれた首元が苦しい。ケイの言っている言葉が理解できない。俺は戸惑いと息苦しさで、口を開く。
「あ、あ、の‥はな、し、て」
「あ゛あ?!」
「ゔぐ!?」
出たのはとてもとても小さな声だった。ボソボソとした俺にケイが怒りを表す。胸ぐらの手の力が強まって更に締め上げられる首元。ひい、俺が何したっていうんだよっ。俺は必死でもがくけど、鍛えられた腕の力になす術もない。
「っやめてください!君、根岸さんを離して!!誰か!先生!」
「っ!?ちょっとやめなさいっ!君、自分が何をやっているのか分かっているのか!?」
「おい!離せっ!くそっ!?」
「ケイくん!?ちょっとケイくんに何するんですか!?」
看護師さんの呼びかけで周りで作業していた医者や看護師さんがケイと俺を引き離す。助けて、くれた‥?なんで‥?
「ゲホッ‥はぁ‥」
離された瞬間、俺はめいいっぱい空気を吸い込んだ。アイツ‥加減ってもんを知らねえのかよっ。危うく絞め殺されるとこだった。
俺は痛む首元を撫でながら、ジッとこの状況を観察した。ケイを取り囲む大人達。それでも暴れ続けるケイに、治療中と思われる医師や救命医も加わる。皆、俺からケイを遠ざけようと必死だ。
この人達は俺を守ろうとしてる。良い人‥それだけじゃないはずだ。これまで生きてきてそんな人間に出会ったことがない。
ケイが俺を掴んでいた時に、Sランクがどうだとか言ってた。理由はそこにあるはずだ。ケイは何を見てそう思ったんだ‥?
ゴツンと、足元に何かが触れて俺は視線を向ける。
「っ!?」
っくりした‥オレンジ色の集団。救命ロボだ。先ほどまで一体だったそれは、気づけば数が増えていて、俺は連なったそれにびびる。なんでこんなに‥。
ふと、救命ロボの腹部の画面に映った赤い表記が目に入った。
『セナカニ ダボク。タダチニ チリョウ シテクダサイ。タダチニ チリョウ シテクダサイ。』
流れる文字列と‥
ーーSランクーー治療最優先人物
大きく表示された俺のランク‥俺の‥ランク‥
‥はい?
「おいネギシタマキッ!?答えろ!!どうしてお前がっ!どんなズルしたんだよ!?」
「っ、お、おれ、にも、よ、く‥わか、な、い‥ごめ‥」
いやまじで。オレンジ色があわあわと俺を医師が集まるケイの方へと、押し出そうとしてくる。だめだやめろ。今あの群れに突入してみろ、確実にしとめられるっ!俺を殺させる気かこいつら!
「っ、なんっだよ‥その、喋り方‥ふざけてんのか!」
「っ?!ち、が‥」
これは‥何を言っても信じてくれないだろう。昔から人の話はあまり聞かないタイプだったけど、今はまるで怒り狂った猿みたいだ。完全に頭に血が昇ってる。
俺だってこの状況を知りてえよ!でも‥うまく説明できないんだからしょうがねえだろうよ‥。なにがふざけてるだ‥。俺だってちゃんと‥喋りたいっての‥。
自分自身でさえ理解できていない。【ランクS】。手の届かないピラミッドの頂点。それが俺だって‥?はあ、ロボットの故障だろ‥考えればすぐに分かることだ。皆んな大袈裟なんだよ。俺は運良くラッキーだった。ただそれだけだ。そんな小さなもんまで許してくれないのか。本当に生きづらすぎて笑えてくるわ。
「ちょっと!?やめてください!根岸さんはSランクなんですよ!?それに今は安静に入院しないと!」
「は、入院?そんな小さな怪我で入院?ふざけんなよ!?ルイの足見てみろよ!?ここにいる人だって皆んな!」
俺はケイの大きな声にびくりと震える。わざとらしい大声。それは俺だけにしか知らないケイの悪い所。ランクが決まってから、ケイはいつだってこんな風に俺を陥れてきた。
『ええ!?ランクDって下から2番目だろ!?底辺ランクじゃん!あ‥だから親父さん出て行ったのか!え?うわ!ごめん!隠してたん?!でもいつか広がってたって!な!皆んなもそう思うよな!』
大袈裟に騒いで、皆んなの注目を集める。ランクが決まった中学の初め、俺はその中心で笑いものになるか、罵られるか。その繰り返しだった。
ざわざわと俺に嫌な視線が集まってくる。寒気がして、思い出したくない記憶達が鮮明に脳内を支配した。
俺はその目に臆する。やめてくれ、俺を見ないでくれッ。
「そうだよ‥なんであんな軽傷なのに」
「どうして俺達は治療できないんだよ」
目‥目‥。
「あいつさえいなければ、俺たちの順番はすぐ回ってくるんじゃ、」
「おい!さっさとこっち治療しろよ!俺はAランクなんだぞ!聞こえてんのか!」
目‥たくさんの目だっ‥。ぎょろりと俺を見つめる目玉っ。見るなっ見るなよッ。
『このっ!!浮気したんだろミサコ!?』
『違います!そんな事するわけないでしょっ!?』
『じゃあなぜこんな‥っ、こんなものが‥バレたら会社で笑い者だっ‥。昇進まで後少しだというのにッ、ミサコ今すぐ離婚届を書け。』
『は、い‥?あなた今、な、なんて‥?』
『お父さん‥?お母さん‥?なに、してんの‥?』
『っ!?この!?』
『ッ!?ッーー。』
『お前のせいでこうなったんだ!バラバラだよもう!二度と呼ぶなっ!!おまえは俺の子じゃない!分かったな!ーーー。』
あの日親父にぶたれた頬の痛みが鮮明に残ってる。ランクがなんだってんだよ‥。すぐに消えるから‥。目立たない様にするから‥もう放っておいてくれよ‥。そんな目で‥俺を見ないでくれよっ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます