1 カッコよくいうと傍観者。現実は陰キャ

 それは、数日前に遡る‥ほどでもない。だってそもそも俺の物語じゃないし。俺にとってそれはただの日常で、見たり聞いたりするだけの映画みたいな存在だったから。


「今年のメンタルテストの優勝者、高等部1年の男の子だって〜!!」

「え〜!?でも、スポーツバトルも高1男子が優勝したって聞いたけど?え、‥まさか、同一人物?」


俺の歩むべき道とは全く別の道筋で起きていた出来事。ニュースで流れてたよく知らない芸能人の浮気騒動だとか、他国の暴動だとか。たまに同情したり、聞き流したり。俺自身が熱くなる事もなく、説明するほどでもなく、俺には関係なく過ぎ去る時間の流れ。そうだな。境界線、みたいなもの。


「1人で99人相手したらしいよッ、やばくない!?」

「噂じゃ、顔の偏差値も超高いんだって。イケメン最高。ファンクラブ入っちゃおうかな〜」


 分かるでしょ?自分には決して入れない境界線があって、その中では壮大なストーリーが展開されてる。だけど、俺はいつもその境界線の外に居て、彼らの出来事を噂で耳にするんだ。実体験、関わり一切なしッ!でも彼らの出来事は伝説じみてて、非現実的で、外側の人間にとっては、面白くて憧れの、夢の中の御伽話。


「女子の奴ら騒ぎやがってうっせえな‥」

「おいおい、好きな子が他の男の話してるからって嫉妬は見苦しいぞー。」

「そんなんじゃねえしッ、つか【ランク】が違いすぎて、勝てる気しねえよ‥。」

「やっぱ【S】の世界って俺達とは違うよな〜‥くう、羨ましいッ!俺も女子の噂の的になりたいぜ〜!!」

「ご愁傷様。」

「おまっ!?親友を励ます優しい心は無いのか!?」


‥何度も言うけど、俺はただ、その話をポップコーンを食べながら鑑賞している一般人なんだ。オーマイガー!?一般人!?なんてことを言うんだいッ皆んな平等だッ!差別ダメヨッ!誰もが素晴らしい!!自由だ!!なんて‥。そんな平等主義な時代もあったらしいけど。

 本当は、皆んな薄々気付いてて、知らないふりをしていただけだって、婆ちゃんは良く言ってた。


「人間にはランクがある。」

 数十年前、どこかのお偉いさんがそう宣言して作ったのが、【ランク制度】。この新しい制度によって、人間の世の中そのものが変化を遂げた。


どんな制度かってのは簡単。人間のランクを分けるんだ。


優秀か、そうでないか。


体力、知能、行動力、人間性、カリスマ性、‥。中身は色々複雑だけど、結論は至ってシンプル。世界に必要であるか?ただそれだけ。


 子ども達は生まれてから12年間、政府の【AI人形】に監視分析され、S〜Eの【6ランク】に区分される。俺達は監視される義務持ち、必ず12年後に【ランク付け】されるのだ。


誕生した日に政府から届くのはAI人形。昔はただのおもちゃだと思っていたトカゲのぬいぐるみ。ベイビーの時からどこに行くのもずっと一緒。俺の宝物だった。そのトカゲちゃんだが、12才を迎えた途端に口を大きく開けてゲロった。いやガチで。ゲロの中から浮き出てきたのは、ランクDと書かれた紙切れ一枚。その日から俺の人生は


 閉ざされたーーー。



 ◇


「やほやほ!見た?校門のところ、ランクEの連中、またたむろしてる。今度はなに企んでんだか。ほんと頭悪いよね〜。」


「だよね!てか、Cの彼氏にこの事愚痴ったらさ、EもDもそんな変わんないって言われたんだけど。マジむかつく。」



【ランクD】下から数えて2番目。Eよりはまし。ランクDの同年代の奴らは皆んな口を揃えてそう言ってる。


「は?!意味わかんない!?それは無いッCとDなら分かるけど、Eは無いって!?」


「だよね〜?今彼Cのくせに頭悪いし別れよっかな‥」


「まじ、そうしなッ!!今度、【上ランクラス】と合コンよ、合コンッ」


 虚しい言い訳だって皆んな分かってるけど、きっとどうしても認められないのだ。自分がほぼ【底辺ランク】って事を。


「よっしゃあああッ!!玉の輿狙ったれいッきゃあッ!?」


 ぼーっと窓の外を見ていた俺に、ドンっと何かがぶつかって、驚いた顔をした女子生徒が後ろへと倒れていく。俺はその手を掴もうとして腕を伸ばすが、掴めるッ!そう思った途端、彼女のを見てしまい、伸ばした手を即座に引っ込めた。


「ッいったぁ‥」


「ッ!?!?あ‥ご、ごッ‥」

 ごめんなさい。大丈夫ですか?普通の人間ならこう言うだろう。俺も昔だったらスラスラ言えてた。自信を持って背筋伸ばして前向いて、尻餅ついてる女の子に手を差し伸べる。簡単な事。だけど今は、

吐き気がするほど難しい。


「うわ、キョロオかよ‥もういいから、早く行きな‥はあ‥ついてな‥」

「ッ、ご、め‥」

「っ、さっさと行け!!」

「ッ!!う、んっ‥」


 うん。なんかごめん。でもさ、君からぶつかってきたんだ。俺は窓の外見てただけだし。本当は俺じゃなくて、君が謝る方だかんな!俺だってムカついてるしっ、後、そう言う言葉遣いだとランク関係なく相手にされないかんなっ!!ぺっぺっ

は、こんな連中と‥

「はぁ、アレと同じランクとかまじむかつく。」

「くう‥惨めになってきた‥もー、やだー!」


 ‥。それは俺のセリフだっての‥。

 逃げるように横切った瞬間、耳に入ったその言葉に急激に虚しくなる。

 底辺同士の無駄な足掻きと争い。そんな言葉が浮かび、俺は彼女らが見えなくなったところで立ち止まってはガクリと溜息をついた。上の連中が見たらさぞいい笑い者だ。気づけ俺。そして君達も。


 俺達は【ランクD】。変わらない。変われない現実なんだから。

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