第85話:遊撃・オードリー視点

 大魔王と父上が魔界の周辺に配置した索敵用の守護石使い魔が、魔族軍が神々の住処を攻撃しようと布陣している反対側に強力な魔力反応を探知しました。

 魔界に直接転移門を開くのではなく、防御結界から離れた場所に転移門を開くことで、魔族の迎撃を逃れようとしたのです。


「最後まで想定通りに行ってくれればいいのだが」


 父上がつぶやかれます。

 内心不安に思っておられるのかもしれません。

 できれば神々には魔族との戦いで滅んでもらいたいです。

 ここで魔族が滅べば次に狙われるのは人族になりますから。

 理想はこのまま予想通り戦況が動いてくれて、魔族も神々も人族と争えないくらい激しく損耗してくれればいいのですが、そう上手くはいかないでしょうね。


「神々がこちらに現れてきたぞ」


 父上が人界を見守っている母上とグレアムに状況を伝えています。

 母上とグレアムは人族の神々が攻撃してきた時に備えてくれています。

 家族会議では、人族の神々が攻撃して可能性は低いという結論になりましたが、絶対ではありません。


「百、いや、二百はいるぞ」


 神々を迎撃する方法は意見が分かれました。

 安全を優先する人は転移門が開かれたらすぐに攻撃魔術を打ち込むべきだと言い、確実に神々を斃していきたい人は、こちらに世界に引きずりこんでから攻撃魔術を打ち込むべきだと言いました。


「よし、包囲攻撃が始まったぞ」


 最終的には包囲殲滅作戦が採用されました。

 それが可能なだけの莫大な魔力を私達が集め魔族に供与することができたので、魔族の慎重派を説得できました。

 アラステアが信じられないくらい多く魔力豊富な世界を発見してくれた事で、今回の作戦が採用できたのです。


 ギャアアアアア


 などという断末魔は一切聞こえてきません。

 全ては音のない世界で行われている攻防です。

 いえ、一方的な虐殺といえるほど圧倒的な勝利です。

 守護石で創り出した戦闘用使い魔が神々よりも強いという事が確認できたことは、人界を護るという意味で安心材料です。


「グレアム、守護石でも十分神々と戦えるわ。

 だから絶対に最前線にはでないでね。

 私や子供達を残して死んでは駄目よ」


 グレアムにはちゃんと言っておかなければいけません。

 正義感や騎士道精神が強すぎて死に急いでしまう可能性が高いのです。

 私としては民を見捨ててでも生き延びて欲しいと思っています。

 本当に身勝手ですよね。


 グレアムの無償の愛情に惹かれて夫婦に成ったのに、その無償の愛を捨てて家族のために生きて欲しいと願っているのです。

 アラステアの言う通り、人族は身勝手な生き物ですね。

 さて、魔界に攻め込んできた神々を殲滅したら、今度はこちらが神々の世界に攻め込む番です。

 

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