第63話:ミネルバ君臨

 カツ、カツ、カツ、カツ、カツ。


 靴音も高らかに、オードリーとミネルバが城から出て行く。

 二十四時間かけて心の中のモノを全部吐き出したオードリーは,

迷いのない顔をして前だけを見つめていた。

 そのオードリーの後ろをミネルバが護るようについていく。

 二人の行き先は誰の目にも明らかだった。


「この、愚か者」


 バッチィーン。


 開口一番、オードリーが昨日のミネルバを彷彿とさせる姿でルーパスを張り飛ばしたが、その破壊力はミネルバの比ではなかった。

 瞬間的にルーパスの顔が歪むどころか、下顎骨が粉砕され鼓膜も破れていた。

 それだけではすまず、ルーパスは十メートルほど張り飛ばされ、城の前を通っている街道の砂の上をジャリジャリと二十メートルほど滑走した。

 その時に服と皮が破れ肉がえぐれてしまった。


「私を苦しめ哀しませた罰です。

 愚か者のお前は、今日からは何も考えずに母上様の言う通りに動くのです」


「ふぁい、ふぁかりふぁした」


 下顎骨が砕け頬が破れ空気漏れするようになったルーパスの言葉は聞き取り難い。

 ルーパスなら即座に治癒魔術で完治させられるのだが、今治すとオードリーだけでなくミネルバまで激怒させると分かっていたので、ひたすら痛みに耐えていた。

 その上でミネルバに絶対服従を誓った。

 恥じる気持ちなど毛頭ないどころか、むしろ愛するミネルバの尻に敷かれる事は、ルーパスの望むところだった。


「癒しの女神よ、ルーパスを癒してください」


 ミネルバなら呪文など唱えなくてもルーパスのケガくらい治せるのだが、唖然と見ている家臣達の手前、多少の演出が必要だと感じたのだ。

 主家家族の仲が悪く、家臣に別々の命令を下す事くらい家臣を困らせる事はない。

 それを解消するためにも、家族のわだかまりが解決された事を家臣達に伝えると同時に、ミネルバが一番の権力者だと教えておく必要があったのだ。


 それに何よりオードリーの守護石から色々な情報を伝えられていた。

 ルーパスが大魔王と交渉してミネルバを蘇らせたくれた事は間違いのない事実だ。

 オードリーにしてもミネルバにしても、その事に関してだけは心から感謝しているのだが、問題はどう見てもルーパスよりも大魔王の方が上だという事だ。

 ミネルバの蘇生術を大魔王から教えてもらわなければいけないという、絶対的に不利な状況ではあったが、それでももう少し何とかなっただろうと思ってしまうのだ。

 だからこそ、今度はミネルバが主体となって大魔王と交渉すべきだと考えたのだ。


「貴男、大魔王と交渉する前に戦う準備を整えておきますよ」


「はい」

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