第57話:走狗
ルーパスに忸怩たる感情が全くないわけではない。
大魔王の想いのままに操られているという情けない気持ちはある。
だがそんな気持ちは、愛するミネルバを蘇らせられるという現実に比べれば、微々たるものだった。
ルーパスは大陸中を翔け回った。
オードリーの守護石が集めてくれた生贄はいたが、数は多ければ多いほどいい。
オードリーに直接間接害を与えている人間だけでなく犯罪者悪人を集めて回った。
魔王戦争を生き残った大陸全体の人口が二億人を切っているのに、その生き残りのうちの五千万人が生贄として集められた。
それでもルーパスは目こぼししていた。
犯罪者であっても、家族を養うために犯した罪なら見逃した。
幼い子供や年老いた親を養っている者は見逃した。
もしそんな者まで生贄に集めていたら、大陸の人口は五千万人を切っていた。
魔王戦争前には三億人もの人が住んでいた大陸の人口が半減していた。
ルーパスはやるべき事は全て人界で行う心算だった。
もう二度と同じ過ちは繰り返さないと誓っていた。
迂闊に魔界に行って、何カ月何年も過ぎていたなんてことは絶対に嫌だった。
もう何度も魔界にはいきたくなかった。
ミネルバ蘇生の交渉は一度で、しかも短時間にすませたかった。
だから何度も何度も手抜かりはないか確かめた。
同時に大魔王が裏切った時の事も考えていた。
ミネルバ蘇生の話が大嘘だった場合や、蘇生に失敗した時の報復を準備していた。
自分が拠点としていた、人界で一番広大で人口も多く文化文明魔術の発展していた大陸だけでなく、人界中の大陸や島々にまで魔力を集める大魔法陣を築いた。
魔力収集大魔法陣の中心には、守護石を据えて人界中の魔力を集めていた。
恐らく大魔王はその光景を監視しているだろうが、事前交渉で約束したのはオードリーの蓄えた魔力の半分だから、約束違反にはならない。
★★★★★★
「お気をつけて行ってきてください、ルーパス様」
「「「「「行ってらっしゃいませ、ルーパス様」」」」」
グレアムと居城にいる者達が一斉に頭を下げる。
この一年の間にいつの間にかルーパスは皇帝のようになってしまっていた。
大陸の王侯貴族制度は完全に崩壊壊滅してしまっている。
わずかに残った貴族達にはルーパスに逆らう気が微塵もない。
空き巣になった王城や貴族の城砦を奪い、覇権を握ろうとするような連中は全員ルーパスに生贄として集められている。
だから大陸中がとても平和になっている。
この一年の間に誘惑に負けて、人の土地やモノを奪おうとした者がいなかったわけではないが、そんな連中は即座にルーパスに捕らわれて生贄用に隔離された。
だからもう他人からモノを奪おうとする者はいなくなっていた。
「行ってくる。
できるだけ早く帰ってくる心算だが、場合によっては数年かかるかもしれない。
その間オードリーの事は頼んだぞ」
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