　グレアムが助けた少女が決意に満ちた表情でルーパスに話しかけた。

　ルーパスにもグレアムが助けようとした少女であろうことは分かっていた。

　ルーパスにとっては行きがかりに目の端に映るだけの少女のはずだった。

　憎い人間の一人にしか過ぎないはずだった。

　だが、美しく成長したオードリーよりも痩せ細った幼い少女を見ると、オードリーへの想いも影響して、無視して行くことができなくなってしまった。

「家臣、使用人だと、一体お前に何ができると言うのだ」

「お世話ができます、お嬢様のお世話ができます。

　若い男性にお嬢様の身の回りのお世話をさせるおつもりですか。

　そんな事をしたら、お嬢様の名誉が傷ついてしまいます」

　少女の言葉はルーパスの不安、心配を的確に指摘していた。

　頭では進化した守護石がオードリーを護ってくれると分かっていた。

　グレアムがお人好しの信用できる漢なのも分かっていた。

　だが頭では分かっていても心が納得しないのだ。

　自分の考えなしの大失敗の所為でオードリーを不幸にしてしまったルーパスは、親心、父性愛をこじらせてしまっていたのだ。

「確かにオードリーの名誉のためには男性に身の回りの世話はさせられんな。

　よかろう、お前にオードリーの世話を任せよう。

　名は何というのだ」

「フリデリカと申します、不束者ですが、よろしくお願い致します」

「分かったフリデリカ、今の給金の相場が分からないが、公爵令嬢の侍女に相応しい給金をあたえよう、それに相応しい世話ができるように努力しなさい」

「はい、頑張らせていただきます」

　ルーパスはフリデリカの言葉を聞いて、また少し冷静になれた。

　よく考えればオードリーは公爵令嬢だったのだ。

　そう考えれば森で馬車に寝泊まりするなど公爵令嬢に相応しくない。

　信用できない人間を雇う事など絶対にできないが、側仕えが少な過ぎる。

　かといって守護石が護っているのに使い魔やアンデットを創るわけにもいかない。

　大魔王との約束は守らなければいけないが、無性にオードリーに住み心地のいい場所を創ってやりたくなってしまった。

「ふむ、よくよく考えれば公爵令嬢の我が娘に馬車で野営などさせられないな。

　簡易の宿泊所を創り出すから少し待っていろ」

　ルーパスは何故だか重々しい態度を取ってしまった。

　それが公爵令嬢の実父に相応しい態度を取って、フリデリカにオードリーに対する尊敬の念を与えようとしているのか、それともグレアムに対する牽制なのか、ルーパス自身にも全く分かっていなかったが、何故だかやってしまっていた。

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