第34話:旅程6

 グレアムはオードリーを護りながら領地に向かって旅を続けていた。

 グレアムの仁徳なのか守護石の力なのか、よき人に恵まれる事が多かった。

 悪徳領主や村役人、盗賊や山賊を守護石が排除していたからだったが、それでもまだまだ庶民の中には善良な人がいる事が確認できてグレアムは安堵していた。

 だがそんなグレアムの心をえぐるような出会いがあった。


「キャアアアアアアアア」


 小鳥さえずる清涼な森の雰囲気を壊すような女性の悲鳴だった。

 常に臨戦態勢のグレアムが素早く動いた。


「後は頼んだぞ」


 グレアムはスプマドール、ラムレイ、バビエカにオードリーの護衛を任せた。

 グレアムにとってスタリオンを含めた四頭は頼りになる戦友だった。

 大切なオードリーを任せる事のできるかけがえのない大切な親友だった。

 スタリオンを駆って悲鳴の聞こえた先に急いだグレアムが見たモノは。


「殺しては駄目よ、ドラゴッシュ、生き血でないと永遠の美貌が得られないわ」


「分かっております、奥方様」


 貧しい身なりながら隠しようのない美しさの少女が捕らえられていた。

 必死で屈強な腕から逃れようとしていたが、その腕はビクともしない。

 それもそうだろう、相手は人間とは思えない巨躯の男だった。

 魔族の中でも腕力に秀でた巨人族かと見紛うほどの体躯だった。

 そんな巨躯の男を妙齢の女性が指揮していた。


 妙齢の女性も巨躯の男も他の騎士達もグレアムの事に気がついていた。

 それはそうだろう、グレアムは急いで馬を駆って来たのだ。

 その馬蹄の轟は隠しようがない。

 だが女に指揮された者達は堂々としている。

 その理由は女が乗って来たであろう馬車を見れば一目瞭然だった。

 その馬車には侯爵家の紋章が堂々と掲げられていた。


「何をされているのですか。

 天下の街道で年端もゆかぬ少女への乱暴狼藉。

 騎士として見過ごすわけにはいきませんぞ」


 グレアムは身分差に負けまいと裂帛の気合を込めて咎めた。

 決意して家を捨てフィアル公爵邸を襲撃したとはいえ、つい幼い頃から叩き込まれた貴族社会の常識に囚われてしまう。

 それを打ち破るには常に自分を叱咤激励しなければいけなかった。

 叱咤激励した後でないと上位者に剣を向けられなかった。


「お黙り、下郎。

 この女は私の領地の平民よ。

 領地の者を煮ろうが焼こうが私の勝手なの。

 そんな事も分からないなんて、騎士を名乗る偽者ね。

 ドラゴッシュ、やってしまいなさい。

 筋っぽくて硬いでしょうが貴男なら美味しく食べられるでしょう」


「有難き幸せでございます」

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