第32話:ルーパス、勇者、大魔王7

「くっくっくっくっ、よく分かっているな、ルーパス。

 余は別の門を開けて欲しいのだよ、別の異世界に通じる転移門をな。

 ああ、心配するな、別に人の住む異世界を侵略しようというのではない。

 知恵のある生き物の住まない異世界でいいのだ。

 不毛の異世界でいいのだよ、ルーパス。

 余は知恵のある生き物を喰らいたいわけではない。

 魔族が生きるために喰らいあう魔界を変えたいだけなのだよ

 ルーパスがそのような異世界への道を開いてくれたら、もうルーパスの世界に魔族が攻め込む必要もなくなるのだよ」


 ルーパスは半信半疑だった。

 もし大魔王の言っている事が本当ならば、自分達の世界は平和になる。

 だが大魔王の言っている事が嘘なら、自分は侵略者の手先になる。

 それこそ人間界を未曾有の危機に陥れた魔王のように。

 大魔王は新たな侵略を行う尖兵として、自分を魔王役にしようとしているのではないかとルーパスは考えたが、直ぐにそんな心配は必要ないと決断した。

 ミネルバを蘇らせるためなら魂も売ると決断したのだからと。


「分かった、魔力が溜まったら異世界の門を開こう。

 それだけでいいのか、それでいいのならもうオードリーを助けに行くぞ」


「ああ、早く助けに行ってやれ。

 今は愚かな男が仮死状態のオードリーを護っている。

 だが相手は若い男だからな。

 いつまで仮死状態のオードリーを黙ってみているだけで我慢できるか……」


 大魔王にそう言われたルーパスは内心慌てふためいていた。

 年頃になっているというオードリーが若い男と二人きりでいる。

 しかも仮死状態で眠り続けている状態でだ。

 もうルーパスはいてもたってもいられなくなった。

 後の条件など聞いていられる心境ではなくなっていた。

 大魔王に挨拶もせずに急いで人間界に転移していった。


「くっくっくっくっ、ルーパスに見捨てられたようだな、お前達。

 だが、これこそがお前達に相応しい終わり方であろう。

 だが心配するな、最後は役に立ててやるよ。

 魔族と人族の両方の役に立ててやる。

 お前達が生贄になる事で、死んでいったミネルバは蘇る。

 ルーパスは新たな転移門を開く。

 共喰いをするしかなかった魔族は新天地を得て人間界を襲わなくなる。

 全てお前達の尊い犠牲のお陰だ。

 くっくっくっくっ、今まで散々他人に犠牲を強いて利を得てきたんだ。

 最後くらいは他人のために自分が犠牲になるのだな」


「お許しください大魔王陛下」

「心を入れかえます、ですから命ばかりはお助け下さい」

「何でもします、大魔王陛下の為なら何でもします」


 魔界遠征軍の将兵は地に這い蹲って許しを請うた。

 額から血が噴き出すほど叩頭して命乞いをした。

 そんな中で勇者だけが大魔王と交渉しようとした。

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