第23話:ルーパス、勇者、大魔王3

 ルーパスはその場に崩れ落ちそうなほどの衝撃を受けていた。

 十六年もの年月が流れているという大魔王の言葉。

 その言葉に嘘偽りがない事を本能と経験で確信してしまった。

 異世界に渡る事の危険を回避しようあらゆる事前準備をした。

 それなのに時間経過の違いを考慮していなかった自分の迂闊さ。

 その現実に打ちのめされていた。


 だがその衝撃を受けたのはルーパスだけではなかった。

 魔界遠征に参加した全員が激しい衝撃を受けていた。

 年老いた祖父母や両親、妻子がどうしているのか不安で仕方がなかった。

 全員が直ぐに家族の元に帰りたいと思っていた。

 だが帰るためには、ルーパスに転移の大魔術を発動してもらわなければいけない。


 しかし娘の死に怒り狂っているルーパスが助けてくれるとは思えなかった。

 勇者に賛同して異世界遠征をおこなうように圧力をかけた者は特にそうだった。

 積極的に賛成はしなかったが、反対もしなかった者も同じだった。

 少しでも早くオードリーを助けに行きたいルーパスが、魔力を浪費して勇者に味方した者を連れて帰ってくれるわけがないと思っていた。

 だが諦めきれずに詫びの言葉を口にする。


「すまない、ルーパス、俺が悪かった。

 この通り謝る、謝るから俺も連れて帰ってくれ」

「俺も謝る、謝るから一緒に連れて帰ってくれ」

「俺もだ、俺も謝るから連れて帰ってくれ」


 多くの者がルーパスに縋りつかんばかりだった。

 誰もが家族の事を想い必死だった。

 だがルーパスの心は全く動かなかった。

 彼らの多くが勇者や王侯貴族に反対していれば、こんな所に来なくてもよかった。

 今さら謝られても何の意味もない。

 いあ、むしろ苛立たしいだけだった。


「話はそれだけか、だったら俺はこれで帰るぞ」


 ルーパスはもうこれ以上魔界にいる気はなかった。

 彼らの欲望に巻き込まれたせいでこんな所に来させられたと思っていた。

 魔界遠征は彼ら自身が望んだ事だと思っていた。

 全員自業自得だと思っていた。

 だから勇者も遠征軍将兵も連れて帰る気など全くなかった。

 自分一人だけの異世界渡り大魔術を詠唱しようとした。


「そう、そう、ルーパスは知っているか。

 神々が禁呪として封印した蘇生魔術というモノがある事を。

 想いの力と魔力さえあれば死者を蘇らせることができる事を。

 転生していても魂と記憶を取り戻せる事を。

 髪一本血の一滴が残っているだけで死者の身体を再生できる事を。

 知っているかねルーパス」


 異世界転移大魔術の詠唱を始めていたルーパスだったが、聞き逃せなかった。

 守護石に護られているオードリーなら、急げば助ける事ができるかもしれないと思っていたルーパスだったが、どうしても大魔王の言葉は無視できなかった。

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