第22話:逃亡

「グッハッ」


 グレアムは屋根裏部屋から飛び降りた事で背中から地面に激突した。

 しかもオードリー嬢を庇って二人分の体重がかかっていた。

 根性と気力でオードリー嬢に衝撃を与えないように身体を張った。

 そんな事をしなくてもオードリー嬢は守護石が護っている。

 屋根裏部屋の窓から投げ落としても大丈夫だった。

 しかしその事をグレアムは知らない。

 

「くっ、ぐっ、オードリー嬢を乗せて逃げろ」


 グレアムは背骨が砕けた激痛に耐えながら愛馬に後を託そうとした。

 賢い愛馬は傷ついたグレアムを心配して集まっていた。

 だがグレアムのその言葉その行動が守護石を動かした。

 オードリー最優先の守護石は、今回は直ぐにグレアムを癒さなかったのだ。

 だがオードリーを馬に乗せるにはグレアムの助力が必要と判断した。


「え、なんだこれは」


 グレアムは愛馬に四肢をおって低い姿勢にとらせていた。

 自分の負傷を考えて両腕だけでオードリー嬢を愛馬の背に乗せようとしてだ。

 死力を尽くしてオードリー嬢を持ち上げようとした。

 だがそんな覚悟を笑うようにスッとオードリー嬢を持ち上げることができた。

 あまりにも必死であったために、全身の激痛がなくなっている事に全く気がついていなかったのだ。


「まあ、いい、今は考えるよりも動くときだ。

 今まで何もしてこなかった分動くのだ」


 グレアムはいい意味で大雑把な所があった。

 普段は色々と思い悩み多くの事を考えてから動く性格だが、ここ一番では即断即決ができる性格なのだ。

 今までは大切な人の命がかかるような重大な場面に出会わなかったから、そんな性格だとはグレアム本人も含めて誰も知らなかったのだ。


「領地に戻るぞ、行け」


 グレアムは素早く馬上の人となった。

 ゆっくりと行けるのなら、オードリー嬢を予備の馬に乗せることができる。

 気絶したままであっても、腹ばいの状態にして乗せることができる。

 だが衝撃があるくらい馬を駆けさせるなら自分の前に乗せて庇わないといけない。

 だから二人で一頭に騎乗して領地を目指した。


 グレアムが全てを知っていたのなら、ゆっくりと領地を目指しただろう。

 守護石の力で公爵邸のモンスターが屋敷からでてくることはないのだが、グレアムは屋敷からモンスターが追いかけてくる事を心配していた。

 王城にいた王侯貴族はほとんどは、守護石の力でモンスター化している。

 そんな事を知らないグレアムは、王侯貴族がオードリー嬢を殺そうと追撃するのを恐れていた。

 

 だから急いで逃げたのだが、全く急ぐ必要などなかったのだ。

 だが、それはそれとして、この世界に絶望したオードリーは目を醒まさない。

 哀しく辛い現実から逃げるために眠り続けていた。

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