19話 初詣で問題発生

「ピーーンポン、ピンポン、ピンポーン」




「んん?」




「ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポ、ピンポ、ピンポ、ピピピピピピピピピーンポーン」




 そんな喧しいインターホンの音で起きた俺は、目をこすりながら時計を見た。瞬きをして、今度は周りを見渡した。そこには布団なども敷かずに雑魚寝している康晴たちがいた。そして、もう一度時計を見た。時計はちょうど12時のところで短針と長針が重なっていた。外を見る。お日様が照っていて、お散歩日和だ。




「これは…お昼……だな………」




 ここで俺の脳みそはようやく働きだした。そして、床から跳ね起きて、その勢いで玄関へと向かい、勢いよく開けると危険なのでそっとドアを開ける。




「ごめんなさい、寝坊しました。10分で支度します」


「……分かった、話はその後だ」


「はい」




 そう告げると、俺は急いで部屋に戻り、精一杯の大きな声を出した。




「起きろ!もう12時だ!」




「んん…12時?」


「なんだ、もう朝なのか?」


「お母さん、あと10分だけ……むにゃむにゃ」


「もう起きる時間なのですか?」


「休みの日くらい寝させてよ、ママ」


「じゅうにじってなに?」




「つべこべ言わずに起きて準備しろ!」




 そして、全員が一斉に時計を見た。5秒程の沈黙の後、同時に口が開いた。






「「「「「「12時!?」」」」」」






「おい嘘だろ匠、先輩たち激怒だぞこれ」


「そうだよ、だから早く支度しろ」




 みんなの脳が動き出したと共に、みんなの体も動き出した。そして、男と女で部屋を分かれて、急いで支度をしている。




「おーい、花蓮。着替え終わったか?」


「うん、全員終わったよー」


「じゃぁ、支度は?」


「最低限の化粧ぐらいは終わったよ」


「了解。おい康晴、俺たちだけでも先に出るぞ」


「意味あんのか?」




 何故先に出るんだ?と言う顔をしている康晴に、俺は真顔で言った。




「そこまで来てる」


「よし、すぐに行こう」


「花蓮、先に出とくからしっかりと支度してくれ」


「分かった」






「お待たせしました。会長、副会長、委員長」


「待ったよ~、すごく待ったよ~」


「まさか豊島さんがいてこうなるとは思いませんでしたが」


「そうだよね~、ルンちゃんがいて遅刻だなんてね」


「それもそうだが、花蓮も時間はキッチリと守るタイプだと思うのだが」


「はい、花蓮は1度も待ち合わせに遅れてきたことありません」


「そうだろう?なら、何故今日はみな遅れたんだ」


「それはですね……」






──時間を遡ること12時間。1月1日0時0分




「なんか眠気吹き飛んだな」




 そういったのは康晴だった。




「確かに、全然眠くないかも」


「ですが、夜更かしは健康に良くありませんし……」


「でも、寝るのも勿体ないよね」


「明日、10時に北中きたなか神社に集合だったよな」


「うん。そうだよ」


「なら、9時に起きれば間に合うよな」


「まぁ、女子には色々準備があるけど、何とか間に合うかな?」


「ま、ここから徒歩5分だし問題ねぇだろ」


「そうだね」


「ですが……」


「ルン。確かにお前の言ってることは正しいと思う。けどさ、1日ぐらい夜更かししたって、大して変わらないって」


「そうでしょうか」


「それに、ほんとはしてみたいんだろ?夜更かし」


「……」


「なぁ、ルンちゃん」


「なんでしょうか、上村君」


「ルンちゃんって、好きなやつとかいんのか?」




 俺とルンが話している間に、向こうでは早速恋バナが始まっていた。




「え?いえ、そういった類のことには疎くて」


「そっかー。じゃぁさ、かっこいいと思うやつとかいねぇのか?」


「え、えーと…」


「何々、ルンちゃんの恋バナ私も聞きたい」


「私も私も」


「え、え?」


「ほらこっち来て一緒に話そうよ」




 なるほどな。俺が説得する必要も無かったって感じだな。もっと強引な手の方が、あっち系の人間には効果的なのかもな。


 ふと見ると、康晴がこっちを見てウインクをしてきた。




「ほんとに、あいつのああいう所はまねできない才能だな」




「匠君、何してるのー。早くこっちに来てよ」


「あー、花蓮逃げたな~。ほら、本当のことを全部吐きなさいよ」




「ハハ、何やってんだか」




 そう思いながら、みんなのもとへ向かった。






 そして3時間後。




「やべー、ぜんぜんねむくねぇ」


「私も、これは徹夜できそうだね」


「私も眠気が全然来ません」


「まぁ、眠くなったら寝るって感じでいいんじゃないか?」


「そうだね」






 そしてさら3時間後。


「やばい、ここにきて限界、きた」


「わ、たしもげ、んかい」


「さ、さすがに、これ以上は、もう」


「おやすみ、なさい」


「俺もそろそろ眠いは」




 と、言った時には誰も起きていなかった。聞こえるのは鼾と寝息のみ。先に寝ると言った花はソファーで寝ており、途中で寝てしまった花蓮は、机で寝ている。みんなもその場に倒れ込んで寝ていた。


 俺は、隣で寝ていた花蓮を見る。修学旅行でも見たが、やっぱり可愛い。そして、そのまま俺も寝てしまった。






「と言ったことがあったんですよ」


「なるほどな」


「なっとく、なっとく~」


「ですが、それにしてもこの時間までというのはさすがに寝すぎなのでは?」




 確かにその通りだ。いくら何でも6時間だ。普通に寝たのならまだしも、6時に寝て6時間は、さすがにやりすぎだ。おそらく友達とのお泊りで、テンション上がりっぱなしだったので、疲れたのかもしれないが、それにしてもだ。




「ほんとに、すみません。受験が近いというのにわざわざ来ていただいたのに」


「まぁ、その辺は気にすることではない」


「うんうん」


「えぇ」




 ん?そこが一番重要なんだけど。




「俺たちは推薦だからな」


「あ、そうなんですか」


「へー。3人とも同じとこなんすか?」


「まぁ、うちの学校は進学校じゃないから学校の数も限られているからな」


「なるほど」




 たしか、うちの学校は某有名私立大学の推薦枠があるからな。おそらく3人ともそこだろう。


 そんな話をしていると、家の扉が開いた。




「お待たせしました」




 ようやく女の子組の準備が終わったようだ。




「急がなくても良かったんだよ?女の子は準備大変でしょ?」


「いえ、もう30分以上も時間貰ってるので」


「え、嘘。30分も話してたの?気づかなかった」


「確かに」


「まぁ、何はともあれ全員揃ったので、出発しましょうか」


「そうだね」


 こうして、俺たちは北中神社へ向かった。






「うーわ、すげー混んでんな」


「いつもはガラガラなににな」


「まぁ屋台が出るほどだからね」


「そうだよな、いつも走ってる時なんか一人もいないしな」


「私も見たことないかな」


「まぁ2人とも家近いもんな」


「まぁな。てか何で知ってんだ?」


「だってお前、花ちゃんの誕生日会の日送って行ってたじゃねぇかよ」


「あぁ、そういやそうだったな」




 誕生日会、誕生日会……。やべぇ、今でもはっきり覚えてるんだけど、花の無邪気な笑顔。やばいやばい、思い出したらニヤケそうだ。落ち着け落ち着け。




「そういや匠、この後どうするんだ?」


「え、いや、特に何も無いけどな」


「じゃ、久々に幼馴染み3人で飯でも行かねぇか?」




 幼馴染み3人で飯、か。そういや前の時に康晴のおかげでりせとのあやふやな関係に終始符を打つことができんだったな。




「おう、行こうぜ。前回とは違って、今はもう昔と何ら変わらない程度に仲良くなったしな」




 それと、康晴の色恋沙汰には少し興味があるしな。




「じゃ、前と一緒でガス〇でいいか」


「そうだな」




 康晴と話が終わり、俺は花蓮の元へと行った。すると花蓮が話しかけてきた。




「ねぇ匠君。明日って、暇?」




 今度は花蓮か。ま、明日は暇だしな、問題ないな。




「おう、全然大丈夫だぞ」


「よかった。実はね、お父さんとお母さんがぜひ会いたいって言ってるの」




 ん?ご両親が、俺に会いたいって?俺、何したんだろ、緊張するな。だってご両親だろ、すげぇ怖いな。




「何だかお兄ちゃんが絶賛するもんだから、会いたくて仕方がないんだって」




 え……会いたいって、そういう意味なの?てっきり委員長のときみたいな感じかと思ってたんだけど、よかった。




「あぁ、それは嬉しいな」


「うん!私もすごく嬉しかった。それで、今度家に来てほしいって言ってたんだ」


「そっか、分かった。明日だな、何時にどこに行けばいいんだ?」


「んーと、11時くらいに小谷駅に来てくれる?家、近くだから」


「分かった。11時に小谷駅だな」


「うん。あ、そうそう、何も持ってこなくていいよ。うちも出せるものなんて全然ないから」


「わ、分かった」




 とは言ってもさすがに手ぶらで行くのは失礼だしな。おつまみとか買って行こう。




「おーい、みんな早く早く!お参りするよー」


「あ、会長が呼んでるね。私たちも早く行こ」


「そうだな」




 俺たちは走って階段を駆け上がった。






 お参りを終えると、みんな屋台に向かって走り出した。いや、メイン絶対こっちだっただろ。チョコバナナにから揚げ、ベビーカステラに綿あめと、各々のやりたいことを存分に楽しんでいた。ざっと数えただけでも100はあるしな。そこそこ規模は大きい方なんだろう。






「いやー、今日は楽しかったなー」




 俺たちは、小一時間神社にいた。さすがにお泊り会の後だからみんな疲れているんだろう。誰もこの後の話はしなかった。




「楽しかったねぇ」


「うんうん。たのしかったねぇ~広樹」


「ま、まぁ、いい息抜きにはなったな」


「だよねだよね、広樹にくっついてるとリフレッシュになるよねぇ~」


「お前は馬鹿なのか」




 そういいながらも少しだけ頬が赤く染まっていた。そういえば、今日ここに来る道中から、ずっと委員長に会長がくっついてたな。最近は委員長も抵抗しなくなったしな。まんざらでもないのかもしれないな。




「じゃ、またあしたね。匠君」


「おう、また明日」


「みんなも、またね」


「バイバイ花蓮、みんな」


「じゃあね、花蓮ちゃん。それにみんなも」


「さようなら皆さん。また新学期にお会いしましょう」


「みんなばいば~い。広樹もまたね~」


「あぁ、また新学期に」


「さようなら」




 みんな駅の方へと歩いて行った。俺たちを残して。




「じゃ、俺たちも行くか」


「そうだね」


「そうだな」


「時間的におやつだな」


「そうだな、ちょっと時間つぶすか」


「でも正月に空いてる店なんかあるか?」


「別にみせじゃなくてもいいじゃねぇか」


「そうそう、近くに公園あるんでしょ?そこに行こうよ」




 あー、確かにそういうのもあるのか。公園なんてあの日以来だな。




「そうだな、割とでかい公園があるな」


「決まりだな」




 そして、俺たちは公園へと向かった。






「それじゃ、新年あけましておめでとうと言うことで、カンパーイ」


「「カンパーイ」」




 公園に向かった俺たちは、ランニングコースを歩いた。さすがに正月ということもあってか、走ってる人は数人程度だった。まぁ走ってる人がいるだけでもビックリだったんだけどな。そして、歩きながら休みの間どうしてたのかとかを話した。話を聞いたところ、どうやらクリスマスは2人で過ごしたそうだ。俺たちとは違い、ゲームしてただけだったとは言っていた。そして、2時間程話したので、そろそろ行こうかということで、今に至る。




「それにしても、幼馴染み3人無事に同じ学校行けてよかったよな」


「そういえばそうだな」


「うんうん」


「まぁ色々あったが、今年も3人そろったな」


「そうだな」


「うん」




 去年は、俺が家に帰省していたのでそっち側で集まっていた。だから、今年もなのだ。






「そういやさ、お前のお母さんが冬のうちに一回顔見せろって言ってたぞ」


「そうか、じゃぁ明後日とかに顔出すよ」


「ん、そう伝えとく」


「ありがとさん」


「あ、ドリンク何かいる?」


「そうだな、オレンジジュースでも入れてきてくれないか?」


「了解」


「悪いな」


「なぁ康晴」


「ん?なんだ匠」


「お前の好きな人って誰だ?」




 俺はりせがドリンクを入れに行った隙をついて、康晴に聞いた。




「は?いねぇよ。つか、いても教えねぇよ」




 なるほど、そういう感じか。あくまでもいないことが前提で、もしもいても教えないと言って、無駄な詮索をさせない寸法か。だが、ある程度察しがついている相手にそれを言うと、自分には好きな人がいますと自分で確定させてるようなもんだ。




「りせだろ」


「!?」




 いま少し顔が動いた。ドンピシャで当てられたときに出る康晴の癖だ。これは1発で当てないと効果が少ないからな。慎重にいったんだが見事に成功だ。




「ちげーよ。大体何で俺に好きなやつがいる前提で話をしてんだよ」


「じゃ、りせに言っても平気だよな。お~いり…」


「待て。別にいいんだが、帰ってきてからだもいいだろ?何故今呼んでまで言おうとしたんだ?それは簡単な話だ。お前は俺に軽いゲームを仕掛けたんだ、不確定な自分の考えを確定に変えるために。ほんとは自白させたかったんだろうが悪いな。生憎俺は本当に恋なんてしてないんだからな」




 フムフム。なかなか冷静に頭が回ってるじゃないか。だけど、1つだけ根本的なことに気づいていないな。




「まぁ康晴の気持ちも分かるぞ。ただ、頭脳戦に持ち込んだのが間違いだったな。生憎おれはこれでも学年3位だ」


「いや、お前が賢いのは小学校の時からだから知ってるよ。将棋、オセロ、チェスって言う頭脳系のゲームで年上も含めて1人しか互角に戦えるやつがいなかったしな。小学校の時は1人もいなかったしな」


「そんなことを聞いてないんだが、今もそうだけど、お前口数が多くないか?」


「そうそう、なんか隠してる時の康晴の癖だよね」


「あ、りせ。戻ってきたのか」


「うん。ちょっと前に」


「そうか」


「悪いんだけど、お手洗い言ってきてもいいかな?」


「別にいいぞ、まだ話してるし」


「ありがと」




 そして、またりせが席を離れる。




「まぁ、りせの言った通りだ。何か隠している人間は、バレそうになるとすぐに違う話にしようとするんだ。そのために口数が多くなるんだよ」




 俺がここぞとばかりに畳みかける。




「はー。さすがに降参だ。何で分かったんだ」


「前から怪しいとは思ってたけど、きっかけは昨日の人生ゲームだ。お前とりせが結婚した時に、わずかながらお前は反応を見せた。それで確定事項に変わったってわけだ」


「なんて些細な変化に気づいてんだよ。逆に怖くなってきたは」


「ま、応援してるぞ」


「ほどほどによろしくな」


「分かってるって、何もしねぇよ」


「そうしてくれ」




 俺たちの距離が、何となく近づいた気がした。昔からあった、薄く高い壁が、ようやく無くなったんだろう。本当に、ようやくだな。






 その後、りせが戻ってきてから少しして、俺たちは帰った。


 家に帰ると、急いで出たのでとても散らかっていた。だが、俺もさすがに疲れていたので風呂に入って速攻でベッドに転がり込んだ。




「明日は花蓮の家に行くんだな。何気に初めてだし緊張するな」




 そんな緊張をしているにも関わらず、いつも以上に早く眠りについた。

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